原発が稼働する限り、核のごみは生まれ続けます。日本ではこれを「ごみ」ではなく「資源」として扱い、すべて再処理する方針(核燃料サイクル)を掲げています。しかし、再処理施設の完成は遅れ、処分の見通しも立たないまま、核のごみは増え続けています。このページでは、日本の核のごみの現状と課題、海外との違いを解説します。
核のごみ(核廃棄物)の種類と行方
原発が稼働する限り、「使用済み核燃料」や「放射性廃棄物」などの核のごみは生まれ続けます。これらは放射能の強さや処分方法によって、以下のように分類されます。
種類 | 概要 | 処分方法 |
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高レベル放射性廃棄物(HLW) | 使用済み核燃料の再処理時に出る高濃度の放射性廃液を「ガラス固化」したもの。強い放射線を出すため、長期間(数万年以上)の管理が必要。 | 地層処分が想定されるが、処分地は未定。 |
低レベル放射性廃棄物(LLW) | 原発の運転・メンテナンスで出る放射性廃棄物(作業員の防護服、フィルターなど)から、核燃料を製造加工する段階で出る放射性廃棄物(ウラン廃棄物、汚染物質)など。一部は長期間の管理が必要。 | 「トレンチ処分」「ピット処分」「中深度処分」などの方法。一部は埋設処分されているが、濃度の高いものは未定。 |
TRU廃棄物(超ウラン元素廃棄物) | 再処理工場やMOX燃料の加工施設で発生する高濃度の放射性廃棄物。高レベルと同じくらい厳しい管理が必要だが、低レベル(LLW)と区分される。 | 高レベル廃棄物と同じく、地層処分が想定されるが未定。 |
事故由来の放射性廃棄物 | 福島第一原発事故で発生した、大量の放射能汚染物。燃料デブリ、汚染水、汚染土壌、除染フィルターなど多岐にわたる。 | 現在のところ確立された処分方法はなく、拡散リスクが指摘されている。 |
このように、核のごみの多くは処分のあり方が決まらない中で、日本では、原発から出る使用済み核燃料は「すべて再処理する」方針のため、ごみではなく「資源」と位置づけられています。この再処理とはどのようなもので、安全なのでしょうか?
再処理とは? その問題点
再処理とは、使用済み核燃料棒を切断して、強い酸で溶かし、化学処理によって核燃料物質(プルトニウムとウラン)を回収することです。強い酸性の廃液には、プルトニウムとウラン以外の多種多様な放射性物質が残るため、非常に強い放射能をもつ危険な「高レベル廃液」となります。この廃液を高温のガラスと混ぜて固めたものが「ガラス固化体」です。日本では、このガラス固化体だけが「高レベル放射性廃棄物」とされ、その他の核のごみはすべて「低レベル」と分類されます。しかし、実際には、低レベルとは言えないほど放射能濃度の高いごみもあります(TRU廃棄物や福島第一原発の汚染水処理で発生する高濃度の汚泥など)。
ところが、再処理をするはずの六ヶ所再処理工場(青森県)は、当初の完成予定(1997年)はとうに過ぎ、着工から30年以上たった現在でもなお完成の見通しが立っていません。そのため、使用済み核燃料の行き場がなくなり、各地の原発では使用済み核燃料の貯蔵量が限界に近づいています。新たな核のごみを出す原発の再稼働ができなくなるので、「中間貯蔵」という体裁をとりながら、‟置き場探し”をしているのが現状です。
再処理の問題点
- 日本ではガラス固化体のみを「高レベル放射性廃棄物」と分類
- 実際には放射能の強い「低レベル廃棄物」も多数存在(TRU廃棄物、高濃度汚泥など)
- 六ヶ所再処理工場が30年以上完成せず、行き場のない核のごみが増え続け限界に近づいている
- 再処理工場は、「原発1年分の放射能を1日で出す」といわれるほど、大量の放射能を環境中に放出する施設
福島原発事故で生まれた膨大な廃棄物
2011年の福島第一原発事故によって、事故を起こしていない通常原発の廃炉によって生じるよりもはるかに大量の核廃棄物が生じました。核廃棄物への対処の原則は「集中管理」ですが、事故後の処理・処分政策は放射性物質を拡散させる傾向にあり、多くの問題があります。
事故後の処理・処分政策の問題点
- 「中・長期ロードマップ」は非現実的
2051年までに「廃炉完了」とされていますが、燃料デブリの取り出しなど、最も困難な課題はあいまいなままです。 - 放射性廃棄物の量が膨大
「廃炉作業」で発生する放射性廃棄物は推計783万トン。単純計算すると通常原発の600倍以上という途方もない量です。 - 燃料デブリの回収・処分が極めて困難
技術的・社会的な課題が大きく、現実的な処分方法の議論も進んでいません。 - 高線量下での作業と被ばく労働のリスク
いまだ人が立ち入れない区域もあり、「廃炉」には多大な被ばく労働が避けられません。 - 100年以上の時間軸が必要
放射能の減衰を待ち、慎重に対応する長期的視点が必要です。 - 処理水や除染土の扱いにも問題
「安全」や「復興」の名の下に、海洋放出や再利用が進められていますが、根本的な処理は未解決です。 - 「40年廃炉計画」は“絵に描いた餅”
廃炉完了を前提とした政策は、現実を見ていないとの批判があります。
破綻した「核燃料サイクル」政策の本当のこと
核燃料を再処理し、プルトニウムを利用しようとする日本の「核燃料サイクル」政策は行き詰まっています。六ヶ所再処理工場がいつまでも完成せず、予算は膨らむばかりです。そもそも、プルトニウム燃料(MOX燃料)を使うために開発された高速増殖炉「もんじゅ」は1995年に事故を起こし、復旧できないまま2016年に廃炉が決定しました(廃炉が完了するまでには長い年月がかかります)。
かわりに軽水炉(普通はウラン燃料を使う原子炉)でMOX燃料を使う「プルサーマル計画」も、ほとんど進んでいません。MOX燃料はウラン燃料の何倍も高価で、再処理もできないため、使用後は行き場のない厄介な核のごみとなります。
六ヶ所再処理工場 | 1997年の完成予定だったが、着工から30年以上経過しても、完成見通し立たず。 |
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高速増殖炉「もんじゅ」 | プルトニウム燃料を利用するはずだったが、廃炉決定。 |
プルサーマル計画 | MOX燃料のコストが高すぎ、扱いも困難。再処理できず、行き場のない核のごみに。 |
日本はこれまで海外に再処理を委託してきましたが、それによって生じたガラス固化体の最終処分の見通しは立っていません。使い切れない量のプルトニウムも蓄積して、国際社会からは核兵器開発の意図を疑われかねません。つまり、日本の核燃料政策は「処分方法が確立していないにもかかわらず、再処理を前提に進めている」という根本的な矛盾を抱えているのです。
こうした状況を放置したままでは、経済的にも合理性がなく、将来世代のリスクや負担が増すばかりです。核燃料サイクル政策の抜本的な見直しが急務です。
海外の高レベル核廃棄物処理の現状
原発の使用済み核燃料を再処理している国には、仏、英、ロシア、中国がありますが、日本のように「全量再処理」政策を採用している国はありません。また日本以外は、核兵器保有国である点にも注意が必要です(再処理はもともと軍事技術)。
再処理する国 フランス、ロシア、中国、英国(縮小) | 再処理しない国(直接処分) 米国、ドイツ、カナダ、韓国、スウェーデン、フィンランド | |
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使用済み核燃料の扱い | 一部の使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムを活用 | 使用済み核燃料をそのまま地層処分 |
軍事利用 | 核兵器用プルトニウムを保有する国が中心 | 米国以外は、核兵器を持たない国々 |
技術的・経済的判断 | 軍事的・エネルギー政策の一環として再処理を維持 | 再処理はコストが高すぎるため撤退 |
処分方法の確立 | フランスでは地層処分の準備中。他の国は未定。 | フィンランドとスウェーデンでは地層処分地が決定。ほかの国では未定。 |
米国は、軍事用は別として、商用の再処理からは撤退しています。フィンランド、スウェーデン、カナダ、韓国では使用済み核燃料を「すべて直接処分」する方針をとっています。
高レベル放射性廃棄物の最終処分をめぐっては、フィンランドで2016年から最終処分施設の建設が始まっており、スウェーデンでも2025年1月に着工しました。いずれも再処理しない直接処分です。両国とも、合意形成と処分地選定に相当な年数をかけたうえでの着工です。ドイツ、フランス、スイスなどでも最終処分をめぐって合意形成に長い時間をかけているところですが、まだまだ処分地選定プロセスの入り口あたりで足踏みしているのが実情です。
日本の「全量再処理」は見直すべきか?
現在の状況を見ると、日本の「全量再処理」には技術的、経済的、国際的に大きな課題があることが分かります。「再処理を一部に限定」「直接処分へ移行」している世界の流れに対し、日本は無理な計画を見直さず進めています。
私たちは今後、どうすれば安全な社会を築けるのでしょうか? 今後も再処理を続けるべきなのか? 直接処分への道を進むべきなのか? この問いを、日本社会として真剣に考える時期に来ています。
地震リスクは核のごみの問題をさらに深刻にする
日本は世界でも有数の地震大国です。地震が発生すれば、原発施設だけでなく、各地の「核のごみ」の貯蔵施設にも影響を与える可能性があります。過去の大地震では、原発施設に予想を超える揺れが襲い、「想定外」の事態が発生しました。日本の原発の耐震基準は本当に万全なのでしょうか?
核のごみの行き場がないまま、原発を続けるべきなのか?
このまま原発を続ければ、核のごみは増え続けるばかりです。そもそも原発に頼らず、電力を確保することはできないのでしょうか? 再生可能エネルギーや電力の効率化が進む中、日本のエネルギー政策はどのような選択肢を持っているのでしょうか。