見解:「今後の原子力政策の方向性と行動指針(案)」の問題点

原子力市民委員会「見解」PDF

政府は原発の建て替えについて、2040年代までに2~5基、50年代までに11~14基とする目標などを掲げた「今後の原子力政策の方向性と行動指針(案)」を公表しました。パブコメの締切は、2026年7月9日です。

原子力市民委員会は、本案には、見過ごすことのできない重大な問題があると考えます。以下、4つの問題点を指摘します。

原子力政策を一方的に進めるのではなく、市民に開かれた議論と民主的な意思決定を求める署名にご参加ください

国際環境NGO FoE Japan、原子力規制を監視する市民の会、規制庁・規制委員会を監視する新潟の会、原子力資料情報室、原子力市民委員会、ひだんれん/原発事故被害者団体連絡会

見解:「今後の原子力政策の方向性と行動指針(案)」の問題点

2026年7月5日

原子力市民委員会

政府は、2026年6月10日に「今後の原子力政策の方向性と行動指針(案)」(以下、行動指針)を公表し、7月9日を締切としてパブリック・コメントを募っている。行動指針は、原子力を「最大限活用」するという結論を出発点に据えた政策文書である。この行動指針には、見過ごせない深刻な問題が少なくとも4点ある。

福島第一原発事故をなかったことにするのか

第1に、福島第一原発事故をなかったことにしようとする無責任な姿勢である。

福島第一原発事故では、いくつもの偶然が重なり、かろうじて東日本全域の壊滅を免れたにすぎない。行動指針案は、このことに関する厳粛な反省がなく、いまだに帰還できない人々をはじめ、事故で深く傷ついた人々の心を置き去りにしている。また、事故から15年たっても事故処理の出口は見えない。広域におよぶ放射能汚染や汚染水・処理水の問題も終わっていない。人々の痛みと現在進行形の苦難から目をそらしたまま「最大限活用」を口にすることは、被災者への裏切りであり、福島第一原発事故を風化させる行いにほかならない。

無責任な姿勢は、福島第一原発事故に関する国の法的責任を政府が未だに認めないこと、東京電力の過失に基づく責任を曖昧なままにしていることに起因している。まずは、福島第一原発事故に対する国と東京電力の責任を明確にし、福島第一原発事故の被害に真摯に向き合う必要がある。

「原子力発電20%」に合理的根拠がない

第2に、2040年度に「原子力発電は、電源構成の2割となる見通しである」という記述には合理的根拠がない。原子力比率20%は、第7次エネルギー基本計画(2025年2月閣議決定)で示された数値目標であり、遡れば、2015年策定の長期エネルギー需給見通しにおける「2030年に20〜22%」とほぼ同じものである。

これについて、政府は、社会全体のエネルギー費用が最も小さくなるよう最適化計算した結果であると説明している。

ところが、電力をめぐる環境は、2015年とは大きく異なっている。この10年で太陽光や風力の発電単価は大きく下落した。再エネは、直近の2025年に800GW増加するなど、世界で最も成長している。蓄電池の価格も下がり、再エネを支える手段として急速に拡大している。電気自動車(EV)は、系統を支える分散電源として位置づけられるようになった。一方、原子力は横ばいで推移している。2005〜2024年の間に稼働を開始した原発のうち約半分が中国であり、中国を除けば27GW減少している。原因には、英米の新設案件にみられるように、見積もりの何倍にも建設費が膨らむこと、運転開始時期が予定より遅れること等がある。

このように、エネルギーをめぐる技術やコスト、需要構造は世界規模で大きく変化している。にもかかわらず、日本の原子力比率目標は2015年以来固定されている。大きな環境変化が起こる中、2040年度の原子力比率を20%とするのは、結論ありきになっているからである。政府が原子力比率を定めた際に用いた計算式は、事実上「ブラックボックス」となっており、外部の専門家が検証できない。「原発は安く、再エネは高く、省エネは困難」という前提に基づいたモデルを用い、「原発は欠かせない」という計算結果を導き、その計算結果を行動指針の前提としている。

20%を達成できなかった場合の代替策がない

第3に、原子力比率20%の代替策がない。新設や建て替えが、政府が言うように予定どおり運ぶ保証はない。また、稼働中の原発も地震などの自然災害、訴訟、地元の同意、規制対応、設備トラブルでいつ止まってもおかしくない。

原子力比率20%が達成困難であることは、政府関係者も原子力業界も理解しているはずである。実際、「戦略17分野における「主要な製品・技術等」の官民投資ロードマップ」(日本成長戦略会議、2026年6月24日)では、原子力の産業基盤が劣化し、企業が撤退している等、原子力産業自体が瀬戸際に追い込まれていることが述べられている。にもかかわらず、行動指針では「原子力比率20%」が達成可能であるかのように書かれ、未達になった場合のことが述べられていない。

加えて、「安全保障」を強調しながらも、各国で現実化している電力網へのサイバー攻撃や、ドローンによる物理的攻撃への備えについては何ら触れられていない。少数の大規模電源に依存する電力供給構造はしなやかさに欠け、原発が攻撃対象となれば電力供給が途絶するだけでなく大事故が起こる。安全保障の観点からみれば、原子力依存を続けることこそ非常に危険である。「原発事故は起きない。原発は攻撃されない。万が一このようなことが起きても、日本は問題ない」という根拠のない楽観が行動指針には貫かれている。その代償を最終的に払うのは国民である。

政策決定が民主的でも双方向的でもない

第4に、行動指針の決定方法が民主的でも双方向的でもない。

第4次~第6次のエネルギー基本計画に記載されていた「原発依存度を可能な限り低減する」という方針は、国民的な討議を尽くさぬまま、第7次エネルギー基本計画で反故にされた。同計画を検討した政府の審議会(総合資源エネルギー調査会)の委員は原子力推進を是とする人々が多数派を占めていた。事実上、政府の審議会は、経産省資源エネルギー庁が用意した文書に賛同し、承認するだけの場となっている。

行動指針では「双方向コミュニケーション」が「原子力を長期的に活用していく上での大前提」であるとされている。しかしながら、2012年の「国民的議論」以降、「広範なステークホルダーとの双方向コミュニケーション」が行われたことは一度もない。また、原子力政策の形成にあたって、国民的参加が実施されたこともない。原子力利用に関しては、各種の世論調査が示すように、原発ゼロを含む多様な意見が存在する。原発ゼロ社会を支持する国民各層も含めた「双方向コミュニケーション」を方針化すべきである。

行動指針は、「政府が掲げた方針は正しい」ということを前提とした一方通行の宣言になっている。このような硬直的姿勢では、パブリック・コメントも、従来と同様、体裁だけの無意味な「ガス抜き」に終わるであろう。

問われているのは、民主主義の質そのものである

以上述べてきたとおり、行動指針は、福島第一原発事故に対する国と東京電力の責任について全く述べていない。その結果、福島原発事故の教訓を踏まえないものになっている。また、原子力比率20%という10年間不動の数値を外部の検証を経ることなく、代替策がないまま示している。加えて、エネルギーをめぐる技術や社会の変化から大きく外れている。

いま問われているのは、原子力発電の可否だけではない。この国の政策がどれほど理にかなって決められているか、すなわち民主主義の質そのものである。行動指針を定めるのであれば、まずは国民の参加に基づく、開かれた民主的な意思決定プロセスのもとで、合理的なものに見直すべきである。

以上

政府の原子力政策は、十分な国民的議論を経ないまま大きく転換されようとしています。

この問題を、専門家や政策担当者だけの問題にしてはなりません。

原子力政策について、開かれた議論と民主的な意思決定を求める署名にご参加ください。

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