日本のエネルギー政策は、原発を使い続けるのか、それとも再生可能エネルギーを中心とした持続可能な社会へ移行するのか、大きな分岐点に立っています。気候変動対策として原発を活用する動きがある一方で、コストやリスク、処理できない核のごみの問題が山積しています。では、私たちはどのようなエネルギーの未来を選択すべきなのでしょうか?
原発は温暖化対策(脱炭素)になる?
「原発は温暖化対策として有効」とされて、2023年に閣議決定された「GX推進戦略」では「再エネと並んで原子力を最大限活用」することが方向づけられましたが、原発の温暖化対策への効果は 「too little, too late(効果が小さすぎ、遅すぎる)」 と指摘されています。電力の一部しか供給できず(増やしても2割程度、現状は1割未満)、増やそうとしても建設に20年以上かかるためです。再エネと比べると「too expensive」(コストも高すぎ)で、言うまでもなく「too risky」である(危険すぎる)のが現実です。
脱原発と脱石炭は同時に実現できる?
いくつものシンクタンク(専門調査組織)や環境NGOが、日本でも省エネと再エネを進めることよって、2030年に原発ゼロ、2050年に脱炭素(カーボンニュートラル)を達成する具体的なシナリオを発表しています(※1)。これらのシナリオは、すでに存在する技術の普及を加速させることで達成可能であることが示されています(※2)。つまり、実現できるかどうかは、政治的意志と決断によるのです。
※1 原子力市民委員会の『原発ゼロ社会への道』2022年版(ゼロみち2022)p229 表5-6 [32.7MB]
※2 環境省(2022)「我が国の再生可能エネルギー導入ポテンシャル」
参考資料:自然エネルギー財団「1.5℃の道筋へ、日本でも自然エネルギー3倍化をCOP28での自然エネルギー3倍化誓約を受けて」「自然エネルギーで日本の未来を開くため行動を続けよう」 ISEP「第7次エネルギー基本計画への提言」
原発がないと電気は足りないの?
「原発がないと電気が足りなくなる」という不安がよく語られますが、事実はどうでしょうか?
福島原発事故後、2012年 5月には稼働する原発がゼロになりました。その後、福井県の 2 基が 1 年だけ稼働しましたが、2013年 9月から約 2 年間は全国で原発ゼロの状態が続きました。それでも、電力が足りなくなるようなことはありませんでした。その後、西日本を中心に複数の原子炉が再稼働しましたが、全国の電力における原発の割合は 1 割にもなりません。
福島原発事故以前は、全国の電力の約 3 分の 1 を原発が発電していた時期もありました。しかし、原発に依存することで、むしろ電力を多く消費するライフスタイルが推奨され、これまでもリーマンショックなどの一時期を除き、日本のCO2排出量は増え続けてきました。
原発は事故のみならず、部品の欠陥が判明したりトラブルが生じたりすることで複数基が同時に停止することがあり、電力の安定供給にとって、むしろ不安定要素となります。そのたびに火力発電所を動かせば、気候変動対策に支障をきたします。こうした観点からも、原発や火力の利用を前提とした大規模集中型の電力供給から、省エネと再エネを活かした地域分散型にシフトしていくことが賢明ではないでしょうか。
電力自由化のはずが、大手優遇のまま
これまで、日本の電力は 東京電力や関西電力などの大手電力会社 10社が地域ごとに独占して供給していました。しかし、この体制では競争がなく、電力料金の高止まりや再生可能エネルギーの普及が進みにくいという課題がありました。
そこで 政府主導の電力システム改革の一環として、より多くの事業者が地域を越えて自由に参入できるようにし、 消費者が電力会社を選べる「電力自由化」 が進められました。2016年には全面自由化が始まり、私たちは大手電力会社以外からも電気を買えるようになりました。
しかし、このシステム改革が目指していた「安定供給の確保」「電力料金の抑制」 は、まだ十分に達成されていません。さらに、新しい電力会社の参入が増えることで促進されると期待されていた再生可能エネルギーの導入も、まだ不十分です。
電力自由化が思うように進まない最大の理由として、依然として大手電力会社の権益が優遇されていることが挙げられます。政府のエネルギー政策が、大手電力を中心とした古い電力供給構造の維持を優遇しているためです。
本来であれば、 再生可能エネルギーの拡大を支えるために使われるはずの資金が、 原発回帰や石炭火力の維持に回されているのが現状です。その一方で、福島原発事故の後始末に膨大なコストがかかっており、その負担は 税金や電気料金に上乗せされ、国民や消費者が負担する仕組みがつくられています。
原子力市民委員会 特別レポート9 『新電力の参入を阻む電力システム改革― 強化される原発・化石燃料温存のしくみ』
共同抗議声明「JERAの電力市場の市場操作に対する業務改善勧告を受けて JERAは電力価格を吊り上げ消費者や新電力事業者に甚大な不利益をもたらした」
福島原発事故はなぜ起きた?
2011年に発生した福島原発事故は、日本のエネルギー政策に大きな影響を与えました。事故の原因やその後の対応、現在の状況を分かりやすく解説しています。正しく知ることで、未来の選択を考えてみませんか?
原発が抱える「核のごみ」の問題。行き場がないまま、原発を続けるべきなのか?
原発が動けば必ず出る「核のごみ」。高レベル放射性廃棄物として長期間安全に管理する必要がありますが、その行き先はまだ決まっていません。なぜ処分が難しいのか?どんな影響があるのか?詳しく知りたい方はこちらへ。