2020年4月24日
原子力市民委員会
座長 大島堅一
座長代理 満田夏花
委員 荒木田岳 大沼淳一 海渡雄一
金森絵里 後藤政志 島薗 進
清水奈名子 筒井哲郎
伴 英幸 松原広直 除本理史
声明の概要
原子力市民委員会は2020年4月24日、東電福島第一原発のALPS処理汚染水の環境放出をめぐり、声明「東電福島第一原発の処理汚染水に関する声明――合意なき環境放出は将来に禍根を残す」を発表しました。
本声明では、経済産業省が新型コロナウイルス感染拡大下で進めた「関係者の御意見を伺う場」の問題、福島県内の漁業・農業・林業関係団体による海洋放出・大気放出への反対、ALPS小委員会の検討不足、東京電力「処理水の処分素案」の問題を指摘しています。
原子力市民委員会は、処理汚染水を環境中に放出するのではなく、大型タンクによる陸上保管やモルタル固化処分など、放射性物質を集中管理する方策を検討すべきだと提言しています。
声明の本文
1.強行された「御意見を伺う場」
東京電力福島第一原発の敷地で増え続ける、ALPS(多核種除去設備)処理汚染水に関して、経済産業省のもとに設置された「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(以下ALPS小委員会)は、海洋や大気へ放出することが現実的であり、海洋放出の方が確実に実施できるとする報告書を今年2月にまとめた。これを受け、経済産業省は、4月6日と13日に福島市および富岡町で「関係者の御意見を伺う場」を開催し、経済産業副大臣など関連省庁の副大臣らが一部オンラインで参加する中、自治体や産業団体などの代表からの意見を聴取した。これについて、市民団体や国会議員は、新型コロナウイルス感染拡大のリスクのもと、強引に進めるべきではないと反対していたが、「御意見を伺う場」は、強行された。
2.海洋放出・大気放出に対する福島県内の各種団体からの反対の声
この「場」で意見聴取する対象は経産省が選定し、事前に説明を行っているため、質疑はほとんどなく、「セレモニー」としての意見聴取となった。
「御意見を伺う場」の席上、福島県漁業協同組合連合会の野崎哲会長は、「地元の海洋を利用し、その海洋に育まれた魚介類を漁獲することを生業としている観点から、海洋放出には断固反対であり、タンク等による厳重な陸上保管を求める」と述べた。また、福島県森林組合連合会および福島県農業協同組合中央会の代表も、大気放出、海洋放出双方に反対の意見を述べた。また、その他の福島県内団体の発言者からも、風評被害への懸念をはじめ、環境への放出に慎重な意見が相次いだ。さらに、福島県以外からの意見も聞くべきとの意見もあった。
「御意見を伺う場」よりも前の3月17日には、浪江町議会が海洋放出に反対する決議を全会一致で採択した。福島県内の各種団体からこのように多くの反対意見があるなかで、経産省が並行して行う一般からの意見聴取は書面のみとされ、期間はわずか1か月余りである。ALPS小委員会の報告に対する一般市民が参加する形での質疑の場は設けられていない。
3.原子力市民委員会のこれまでの提言
原子力市民委員会は、ALPS処理汚染水問題を含む、福島第一原発事故サイトの後始末に関して、これまでもたびたび提言を行ってきた。その主旨は以下の通りである。
- 汚染水は、[①堅牢な大型タンクで長期保管を行う ②モルタル固化して半地下で処分を行う]といった既存の技術を使った方法を検討すべきであり、環境中に放出すべきではない。長期保管によって、汚染水に含まれる放射能を確実に低減させることができる。
- ①②の場合の用地については、7・8号機が建設予定であった敷地北側(現在の土捨て場)もしくは後背地の活用を検討すべきである。
- 原発建屋は100年以上の長期隔離保管を行い、放射能の減衰を待つべきであり、③汚染水の根本対策としては、デブリの空冷化により汚染水の発生源を絶つことが必要である。
- デブリの取り出しは技術的にも社会的にもまったく見通しが立っておらず、デブリの取り出しを前提とし、30~40年で廃炉をすすめるという「中長期ロードマップ」は根本的に見直すべきである。
4.ALPS小委員会での検討は不十分である
これらの点について、ALPS小委員会においては、①については東京電力の説明がそのまま報告書に盛り込まれた。②については議論すら行われなかった。用地については、小委員会の委員からも、敷地北側の土捨て場の活用や敷地拡大についての意見が出された。しかし、ALPS小委員会事務局は、「相応の設備や多岐にわたる事前調整、認可手続きが必要」と回答し、それ以上の議論は行われなかった。
③については、デブリ取り出しを前提とした「廃炉ロードマップ」が、検証もされないまま議論の前提とされた一方で、根本的な汚染水の発生抑制についても議論されなかった。
5.東京電力「素案」には問題が多い
ALPS小委員会の2月の報告を受けて、東京電力が3月24日に発表した「処理水の処分素案」に関しては、以下のように多くの曖昧な点があり、問題が多い。
- 現在タンクに残存している放射性核種の総量が不明である。
- 「二次処理」したあとに残留する放射性核種や微生物等がどの程度かが示されていない。
- 排出する水の総量など基本的な情報が不明であり、環境に与える影響が判断できない。
- 海洋排出時のシミュレーションについては、放出条件、季節、干潮時・満潮時、水温、水量、放出期間などの前提条件が示されておらず、信頼性に疑問がある。
現在、72%のタンクにおいて、放射性物質の告示濃度比総和が1を上回っており、ストロンチウム90、ヨウ素129、ルテニウム106などが残留している。しかし、その総量が示されておらず、また、「二次処理」を行った場合、どの程度除去できるのかが明らかにされていない。これは、放出する処理水の性状に関わるもので、本来、不可欠の情報である。
しかし、経済産業省は、東京電力の「素案」をそのまま「御意見を伺う場」などのウェブサイトに掲載している。
6.慎重で丁寧な意見聴取プロセスを経るべきである
現在、経産省が新型コロナウイルス感染拡大にともなう緊急事態宣言下において拙速に進めようとしている意見聴取のプロセスは、以下のように、さまざまな問題をはらんでいる。
- 経済産業省が意見を聴取する対象は限定的かつ形式的である。
- 一般市民からの意見聴取は「書面」のみに制限されている。
- ALPS小委員会の報告書、東京電力の「処理水の処分素案」に関して、多くの疑義があるにもかかわらず、公開の場での議論が一切行われていない。
- 「水蒸気放出」と「海洋放出」の二者択一を迫るものであり、陸上での保管や固化による永久処分についての選択肢を切り捨てている。
海洋汚染の防止を目的としたロンドン条約は、放射性物質も対象としている。経済産業省は、ALPS処理汚染水を沖合に運んで投棄することはロンドン条約に抵触すると認めながら、陸上からの排出は「投棄」に含まれないとしている。しかし、陸上保管が可能であるのにもかかわらず放出することは、条約の理念と目的に違反し、国際社会の理解を得られるものではない。
7.環境への放出ではなく、モルタル固化案の検討をすすめるべきである
原子力市民委員会は、放射性物質は集中管理すべきという原則から、ALPS処理汚染水の環境中への放出に反対し、従来、私たちが提案してきた大型タンクによる陸上保管もしくはモルタル固化処分を検討することを、あらためて提言する。原子力市民委員会としては、環境への放出を将来にわたって遮断できるという観点からは、モルタル固化処分の方が、より望ましいと考える。
意思決定のプロセスについても、上記のように問題が多く、このまま、経済産業省が恣意的に行う「御意見を伺う場」のみで海洋放出に決定されれば、行政への不信はさらに深まり、将来に禍根を残す。
処理汚染水を含めた廃炉プロセス全般に関して、国会や専門家・市民などによる監視の仕組みが必要である。とりわけ、最も影響を受ける漁業者をはじめ、福島県内外の一次産業の関係者の反対を無視すべきではない。
経済産業省は、新型コロナウイルスの脅威が解消されたのちに、一般公開の場で、上記の問題点に関して十分に答える場を設定すべきである。
以上

