浜岡原発耐震偽装発覚を受けての
原子力市民委員会 座長・原子力技術・規制部会長コメント
2026年1月14日
原子力市民委員会
座長 大島 堅一
原子力技術・規制部会長 後藤 政志
1.問題の本質は浜岡原発の立地にある
中部電力は、2026年1月5日に、原子力規制庁による調査への対応にあたって、審査会合での説明とは異なる方法で、意図的にデータを作成したことを公表した[1]。この中部電力の不正に関連して実施された記者会見(2026年1月7日)で、原子力規制委員会の山中伸介委員長は、これを「原子力規制に対する暴挙」「原子力安全を破壊するものである」と断じている。
この件に関して、2026年1月7日の第50回原子力規制委員会では、「ねつ造・改竄」にあたり耐震設計の根幹を覆す深刻な事案であること、安全確保という事業者の第一義的責任を自ら放棄したとの意見が、山中委員長をはじめとして各委員からだされた。
この問題の本質として見落としてはならないことは、想定東海地震の震源域において原発を運転し続けようとすること自体に無理があるということである。
科学的知見に基づく地震動の想定に対して、浜岡原発で実際に施工可能な補強工事や耐震設計で対応することが技術的・経営的に可能であれば、中部電力がデータ改竄をしてまで審査を通そうとする動機は生じない。不正が行われたという事実は、現実的な対策では想定される地震動に対応できないことを中部電力自身が認識していたことを示唆している。これは、地震対策の観点から見れば、浜岡原発の立地そのものが誤りであったことの証左であると言うべきである。
2.審査を打ち切り、他原発も再検証すべきである
1月7日の原子力規制委員会後の記者会見で、山中委員長は、「審査そのものをやり直す必要がある」とのべ、中部電力の本社や浜岡原発への立ち入りも含めた規制検査を行う考えを示した。
しかし、この対応では問題の本質を見過ごすことになる。申請者である中部電力が審査データを改竄した以上、審査を「やり直す」のではなく、打ち切るのが当然である。中部電力もまた、自ら不正を認めた以上、直ちに申請を取り下げるべきである。審査を継続すれば、原子力規制委員会が、「合格」を前提に中部電力を指導するかのような構図になりかねず、原子力規制委員会の独立性が損なわれかねない。
さらに重要なのは、この問題が浜岡原発に限られないという点である。今回の不正の経緯を検証することは当然必要である。しかしそれだけでは不十分である。今回の不正は、公益通報によって初めて発覚したものであり、規制機関による審査では見抜くことができなかった。すでに審査に「合格」して稼働中の原発や、再稼働間近とされる柏崎刈羽原発についても、基準地震動の策定において同様の過小評価がなかったか、規制機関として直ちに再検証することが求められる。浜岡原発で不正が行われていたのであれば、他の原発でも同様の問題がなかったとは言い切れない。
3.規制審査の機能不全
今回の問題は、基準地震動をめぐる規制審査の機能不全を浮き彫りにした。
原子力規制委員会は、中部電力の策定した浜岡原発の基準地震動(震源を特定して策定する地震動)について、2023年9月に、「おおむね妥当」と判断していた。ところが、2025年2月に公益通報があり、中部電力に追加説明を求める過程で不正が発覚した。山中委員長は、公益通報制度が機能した結果であり、規制の仕組みに問題は無いと述べた。しかし、この説明は問題の本質をすり替えている。
現行の規制審査において、原子力規制委員会が審査するのは、事業者が策定した基準地震動の評価結果とその説明資料のみである。事業者が評価に用いた過去の地震観測記録などの基礎データを開示させる仕組みはなく、第三者機関によるダブルチェックも行われていない。このような審査の枠組みこそが、不正の温床となったと考えるべきである。
原子力規制委員会がまずなすべきは、すでに審査で「合格」とした原発について、基準地震動の策定に用いた基礎データを開示させ、第三者による検証を可能にすることである。これは事業者に過大な負担を課すものではない。事業者として、自社の技術的検討の正当性を示すためにも積極的に対応すべきである。
4.原子力規制のあり方に関する根本的な見直しを
以上を踏まえ、基準地震動策定方法だけでなく原子力規制のあり方に関する根本的な見直しを求めたい。
現行の評価手法は、原発ごとに、立地特性、地盤特性、伝播特性を分析し、基準地震動を策定するというものである。これは一見、精緻にみえる。しかし、それぞれのパラメータの振れ幅には科学的根拠が必ずしも明確でない部分があり、定量化には限界がある。パラメータの組み合わせについても、平均的な値に「ばらつきを考慮して」積み重ねていく手法が採られている。これは安全性を最優先とする考え方とは相容れない。その結果、安全性の観点から看過しがたい過小評価が入り込む余地が構造的に内包されている。
見直すべき点は明確である。第一に、できるだけ小さい基準地震動を策定し、それを正当化しようとする事業者の姿勢を容認しない仕組みを設けることである。第二に、疑わしい場合は安全性確保を最優先するという原則を徹底することである。
原子力規制委員会の審査体制にも課題がある。個々の申請への対応に膨大な労力を要しており、現行のやり方で規制機関としての役割を果たし切れるのか疑問である。原子力規制のあり方そのものについて、批判的観点から抜本的議論を始めるべきである。
今回の件についても、従来と同様のかたちで中部電力に数年かけて再申請をさせたところで、より緻密な、あるいはより巧妙な審査資料が提出されるだけであろう。その妥当性を、原子力規制委員会が正しく検証できる保証は全くない。今回の不正は公益通報によって初めて発覚したものであり、審査によって見抜かれたわけではない。不正の発見を公益通報に頼り続ける体制では、安全規制としては不適切である。
この浜岡原発をめぐる問題を、中部電力の不正や一企業の技術力の問題に矮小化してはならない。今回の事案を契機に、原発の安全規制を根本から見直すべきである。
5.浜岡原発を速やかに廃炉にすべきである
2011年5月、東日本大震災・福島第一原発事故を受けた政府からの要請により、浜岡原発は運転を停止した。以来14年以上にわたり同原発は一度も稼働していない。
この間、津波対策としての防潮堤建設や再稼働のための安全対策工事などに投じられた費用は約4,000億円にのぼる。原子力規制委員会における審査にも、人件費を含め膨大な行政資源が費やされてきた。浜岡原発は、14年間、電力供給していないにもかかわらず、これらの費用は電力消費者や納税者による負担となっている。
冒頭で述べたとおり、浜岡原発は、想定される東海地震の震源域に立地している。想定すべき地震・津波の規模を考えれば、いかなる安全対策を講じても安全な運転には根本的な無理がある。これ以上の費用負担を続けることは経済合理性の観点からも正当化できない。原子力規制委員会は浜岡原発の再稼働にむけた審査手続きを打ち切るべきであり、中部電力は速やかに廃炉を決断すべきである。
以 上
[1] 中部電力株式会社「浜岡原子力発電所の規制基準適合性審査における基準地震動策定に係る不適切事案について」プレスリリース(2026年1月5日)
