【寄稿】除染土の上でサッカーを!? 国は中間施設に「置きっぱなし」にするのか

除染土の上でサッカーを!? 国は中間施設に「置きっぱなし」にするのか

ジャーナリスト・小森敦司

除染土の上でサッカーを!? 2011年3月の東京電力福島第一原発事故後の除染で出た土(除染土)[1]はいま、原発を取り囲む形で、同県双葉町・大熊町の中間貯蔵施設で保管されている。広さは東京都渋谷区とほぼ同じで、運び込まれた除染土等は東京ドーム11杯分約1400万㎥になる――政府は搬入開始から30年以内(2045年3月まで)に福島県外で最終処分すると法で約束したが、事故から15年を経てもその場所探しには進展がない。最終処分量を減らすため、政府は放射能濃度が一定程度以下の除染土を再生利用する方針も打ち出したものの、具体的なメドはない[2]。筆者は一つの疑念を抱く。国は、例えば、中間貯蔵施設の一部を公園などにすることを想定し、除染土の多くをそこに「置きっぱなし」にするのではないか[3]。福島の人々との約束に反する、そうした可能性を検証したい。

もくじ

(1)放射線は「99%遮へいしています」

「まるで公園だ。サッカーや野球を楽しめそうだ」。中間貯蔵施設の一角。「土壌貯蔵施設」と呼ばれる高台に立つと、そんな考えが脳裏をよぎった。足元には除染土が約15mの高さで埋まっている。

腰のあたりで線量計をかざすと毎時0.222マイクロシーベルトだった。案内スタッフは「みなさん、0.2ぐらいでしょうか? 覆土が60cmメートルあって、下からの放射線を99%遮へいしています」と説明した。土の飛散防止のため芝も植えられていた。

(左)見学会で訪れた「土壌貯蔵施設」の上で線量計をかざしてみた。毎時0.222マイクロシーベルトだった。(右)中間貯蔵施設の位置図。環境省のホームページから。2022年12月時点の想定。同施設が福島第一原発を取り囲んでいる[4]

2025年12月中旬に参加した見学会で案内された。見学会は、国からの委託を受け、施設の整備・管理などにあたる「中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)」が頻繁に催している。筆者も他の参加者と小型バスに乗り、2時間余りかけて大熊町内のコースを回った。高市早苗首相も約2週間前にここに視察に来たという[5]

正直に言うと、見学後に思ってしまった。「除染土は、このまま『置きっぱなし』でいいのではないか」と。たとえ公共事業などで再生利用する場所が全国のどこかで見つかったとしても、掘り出し作業や輸送は大変だろう。巨額の費用もかかる。再生利用先の住民も不安に思うはずだ。ならば、除染土を動かさなくてもいいのではないか――。

JESCOの担当者に確認すると、この貯蔵施設の下にある1キロあたり8千ベクレル以下(濃度の問題は後述する)の除染土は、すでに草や木などの異物は取り除かれているという。では、このまま再生利用に使えるのかと聞くと、担当者は「用途に応じて土質改良などを行う場合があります」としつつ、「放射線濃度の面では、そのまま使えるという理解で大丈夫です」とした。

そうした答えを受けて、除染土はそのまま「置きっぱなし」にして、公園にすることも(実際に子供たちをそこで遊ばせることは考えづらいが)有力な策ではないかと思えてしまったのだ[6][7]

しかし、除染土搬入前の2014年6月の地権者や町民への説明会では、こんなやりとりがあった[8]

参加者:30年以内に中間貯蔵施設はなくなると断言されるということでよろしいんですか。
環境省:はい、30年以内に県外で最終処分場を完了するということでございますので、30年後には中間貯蔵施設としての機能は終了すると、そのように国として進めていきたいと思っております。

環境省の当時の担当局長も2014年11月、国会でこう答弁した。「再生利用につきまして広く国民の皆様の御理解を得て、基本的に福島県外での利用を図りまして、最終処分の対象となったもの、減容化のものにつきましても県外の最終処分地において最終処分を完了するということでございます」[9]

こうした説明を聞いて、施設は将来、更地になると信じた地権者や地域住民がいたはずだ[10]

ただ、こうも解釈できないか。「中間貯蔵施設としての機能は終了しますが、再生利用の場として機能します」「公園の盛り土など例外的に福島県内での利用を……」。この国なら、やりかねない。

(2)地域間で押し付け合う構図に

中間貯蔵施設の行方を考えるにあたり、経緯を改めて整理したい。

福島県では、原発事故で広がった放射性物質を取り除く除染で膨大な除染土が出た。当初、仮置き場や庭先に置かれたが、政府は復興の支障になると中間貯蔵施設の確保を急ぎ、2014年9月、福島県は建設受け入れを容認。複数の新聞記事が、環境省は当初、最終処分場にする案を福島県に持ち掛けたが、当時の民主党政権の官邸が許さず、中間貯蔵施設になった、と伝えている[11][12][13]

2014年12月に施行された「中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)法」第3条2項は、「中間貯蔵開始後三十年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずるものとする」と定めた。施設を受け入れてもらうための、地元への「約束」だったが、その法的効力を問題視する見解がある[14][15]

2015年3月、除染土の搬入が始まった。2016年6月、環境省は最終処分量を減らすため1キロあたり8千ベクレル以下の除染土を公共事業に利用する方針を打ち出す。利用先に道路や鉄道の盛り土などを想定、後に公園を含む緑地の造成も加えた。これに市民側からは「広く放射性物質を社会に拡散するような取り扱いはすべきではない」といった批判・懸念が噴出した[16]

こうして経過を調べてみると、そこに様々な偽りや無理があったように思える。

時が移るが、環境省は2025年3月、「再生利用」との呼び方を「復興再生利用」に変えた。前向きなイメージを出したいのだろう。その呼び方を使った同省の現状の説明図のスクショを下に貼る[17]

「県外最終処分」を減らすには、「復興再生利用」を増やさないといけない。逆もしかり。どちらを取るかを住民に迫るものだ。除染土を地域間で押し付け合う、そんな構図を環境省はつくった。

2025年3月11日放映のNHKスペシャル「約束はどこへ/さまよう除染土」では冒頭、関東地方の住人が言い放つ。「冷たい言い方かもしれないですけど、あそこ(福島)で出たものはその地域で保管してもらう」。筆者も中間貯蔵施設で「除染土は、このまま『置きっぱなし』でいいのではないか」と思ってしまったことは先に記した。

こうした考えについて、自身の土地を中間貯蔵施設のエリア内に所有している「30年中間貯蔵施設地権者会」会長の門馬好春さんに尋ねてみた。答えはこうだった。「国は除染土の最終処分場を見つける努力をしたのでしょうか。一番大事なことをしないで、『無理でした』というのは、順番が違います」

確かに、国が「県外最終処分」の場所を必死に探している、といったニュースを聞いたことがない。「復興再生利用」も、政府は2025年夏、官邸の前庭や霞が関の官庁の花壇に使うとPRしたものの、この時の公表数字を全部足しても68㎥と、小学校の25mプール一杯分(400㎥前後)にもならない。繰り返すが、中間貯蔵施設の除染土等の総量は東京ドーム11杯分約1400万㎥だ。

門馬さんは2025年3月11日、環境省との交渉過程などをつづった本「未来へのバトン 福島中間貯蔵施設の不条理を読み解く」(インパクト出版会)を出した[18]。環境省の交渉姿勢をこう記した。「環境省は、とにかく〝土地を売れ〟と言ってきます。私たちはそこに不信感を抱いています」

(左)取材に答える門馬好春さん。(右)門馬さんたちの著書「未来へのバトン」の表紙には、「ふるさとを取り戻す」との文字もあった。

敷地を国有化して最終処分場にするのでは、と疑っているのだ。本の帯に記された言葉を抜粋する。
「30年間、我慢してほしいとの約束で……多くの地権者が泣く泣く事業に協力しています。ですから、国と東電は約束を絶対に守らなければいけません。想定外などと責任逃れの言葉を使ってはなりません」

(3)開示資料に「福島県vs環境省」

もしも、「最終ではなく中間ですから」と説明して、地上権契約などを結び、後々、適地が見つからないので「置きっぱなし」にするなら、ひどい話だ。しかも、早い段階から、それを狙っていたとすれば相当悪質だ。でも、筆者はそんな可能性を示す一つの痕跡を見つけた。

それは、情報公開請求で大熊町から得た「安全協定」をめぐる開示資料の中にあった。 協定は中間貯蔵施設への除染土搬入を控えた2015年2月、環境省と福島県、大熊町、双葉町の4者が結んだ[19][20]。周辺地域の安全の確保を図るものだが、その中に、なぜか、「最終処分」に関する規定(第14条)がある。とても異質だ。まず、協定の第14条部分をスクショして貼りつけておく。

大熊町から開示された資料は、A4用紙で45枚。14条関連の記述の変遷が断片的に分かる。その中に論点ごとに、「福島県の意見」と「環境省の考え方」を併記した資料があった。14条がどうしてこの協定に入ったのかを探るヒントをそこに見つけた。

「最終処分」に関する「福島県の意見」はこう記されていた。「県外最終処分の担保:貯蔵期間が搬入開始日から30年以内、及び、管理期間終了時点で県内除去土壌等を全て搬出させることを求める」「搬出の検討状況の報告:県外最終処分までのプロセスの実施状況等について報告等によりその担保を求める」「跡地利用:跡地利用の協議を求める」(傍点は筆者)
当該部分をスクショして下に貼り付ける。

※ 分かりやすくするため、関係する部分を切り貼りしてある。

筆者の推測だが、福島県側は、前述のJESCO法の第3条2項「三十年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずるものとする」という規定だけでは、「置きっぱなし」を阻むのに、心もとないと考えたのではなかったか。

この点について大熊町の環境対策課に尋ねると、「当時携わっていた者」に当たってくれた。メールによる、その方の回答はこうだった。「大熊町から求めたかは不明ですが、当時、地権者から法律は変更することができると意見があったため、何らかの担保が必要であったことは確かです」

筆者の推測が「当たり」だったと言えようか。

ただし、正式締結前の協定案には、ある規定(3項)が入れられた。「丙(筆者注:環境省を指す)は、国民の理解の下に、除去土壌等の再生利用の推進に努めるものとするが、再生利用先の確保が困難な場合は福島県外で最終処分を行うものとする」というものだ。その部分のスクショを下に貼る。

つまり、順番として、まずは「再生利用の推進に努める」。そして、「再生利用先の確保が困難な場合」になって、ようやく「県外で最終処分を行う」ことになっている。前述のJESCO法の「県外最終処分」の規定が骨抜きになってしまわないだろうか。

これに対して、「当時携わっていた者」は、次のような見解を示した。「福島県の意見に対する環境省の考え方で、基本協定第14条が追加となっていることを踏まえると、県内で発生した除去土壌等は(再生土も含む)県外に搬出されると考えられます」(筆者注:マルカッコ部分も元のメールのまま)。

筆者はもう一つ、気付いた。正式な協定の第14条4項(3項が4項に移った)は、さらに変更されていた。「丙(環境省を指す)は、福島県民その他の国民の理解の下に、除去土壌等の再生利用の推進に努めるものとする……」と、「福島県民その他の」が加えられたのだ。

これだと、再生利用の場所として福島県内を想定しているように読めないだろうか。この点、「当時携わっていた者」は、「やり取りには参加しておりませんで、最終的に『福島県その他』と追加された意図は不明です。除去土壌等の再生利用は国が責任を持って行うと認識をしております」とするのだった。

安全協定が結ばれてから約10年後の2025年8月、政府は除染土に関する工程表(ロードマップ)をまとめた[21]。2030年ごろ、復興再生利用については「目途を立てる」、県外最終処分については「候補地の選定・調査を始める」とした。工程表の図の一部をスクショし、貼り付ける。

この図の復興再生利用に関する上段は、「官邸での利用」などを挙げ、前進している体裁を取り繕っているが、その先の具体的な見通しがない。県外最終処分に関する下段も、「検討」の羅列に終わっている。一言でいえば、「やる気」がまったく感じられない[22]

なお、朝日新聞の記事によると[23]、この工程表の「補足」文には、その決定間際に福島県知事の強い思いから、次の一文が加えられたという。「2035年を目途に最終処分場の仕様の具体化、候補地の選定等を行い」。福島県側として、最終処分場にされてはなるまい、つまり「置きっぱなし」はダメだと期限付きの定めを環境省に迫ったのだろう。両者のせめぎ合いがずっと続いている。

(4)「中間貯蔵施設で再生利用を」と有識者

切り口を変えて、国の思惑をさらに考えてみたい。

中間貯蔵施設への除染土搬入開始後の2015年7月から、除染土の再生利用策などを協議する有識者会議を環境省は開いてきた。「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」という仰々しい名前だ。2025年3月までに計20回開かれた[24]

尊敬するジャーナリスト・まさのあつこ氏のXへの投稿[25]の言葉を借りると、「この『専門家』の集まりこそが、汚染土再利用にお墨付きを与えてきた」。前述の「8千ベクレル以下は再生利用」にゴーサインを出したのも、この検討会だ。

環境省のホームページにあった議事録を読むと、「復興」を名目に除染土の福島県内での再生利用を求める、ある委員の発言が際立っていた。この委員が所属していた組織に聞くと、すでに亡くなっていた。取材できなかったので名前こそ伏せるが、高レベル放射性廃棄物の処分に長年かかわった人物だった。

印象的な発言を抜き出す。

2017年10月 「高レベル放射性廃棄物の地層処分もそうですが、オールジャパンでやったってなかなか進まないものを、福島の災害廃棄物で出たものを他県でというのは並大抵ではないし、そこに注力するよりは福島の復興のためという旗のほうが重要だと思う」

2019年3月 「(技術開発戦略の見直し案に)全国民的な理解醸成という言葉が出てくるのですけれども……福島県以外に持ち出して再生利用が本当に可能なのか疑問です」「復興拠点の計画と連動させて再生利用を図るのは現実的なやり方だと思います。真っさらなところに土を持っていって再生利用というのは、まず受け入れてくれません。だったら、福島の復興に役立つ使い方で使っていくことにしないと、いつまでたっても再生利用は進まないと思う……」

2022年3月 「県外で30年以内に処分と言っていますが、果たして県外が受け入れてくれるかどうか。今後の努力次第のところはありますが、極めて難しいです……中間貯蔵施設の中こそ再生利用の一つの場であると私は思います。全面花畑にするとか、国営の公園にしてしまうとか、いろんな考え方があってしかるべきです……放射能濃度が極めて低いのであれば、中間貯蔵施設の中である程度利用するということも、一つの方針としておかしくない」

これらの発言は、中間貯蔵施設に関する国側の本音を代弁しているのではないか。

この検討会を含む環境省の除染に関する政策立案は、やはり筆者が尊敬する元毎日新聞記者の日野行介氏の「除染と国家」(集英社新書)に詳しい。執念深い取材と情報公開請求で特ダネが満載だ。

同書のなかに、除染の制度設計に深く関わったという元国会議員の重要な発言を見つけた。中間貯蔵施設に関する2つの発言を、ここで引用させていただく。

「(政府内では)『あくまで仮置き場であり、『最終処分場』と言ってはいけないということだ。そう言わないと福島県が受け入れてくれない。だから中間貯蔵施設というネーミングになった」(P214)。

「最後は細野環境相が『30年で行こう』と政治的に決めた。30年後が怖いよね。誰が処分先を見つけるんだろうね」(P215)

この発言を読んで、筆者は、国はやはり、除染土を中間貯蔵施設に「置きっぱなし」にしたいのだ、との思いを強くした。

(5)県内再生利用に環境相が「OK」

直近約1年の動きに話を進めたい。

「双葉町 除染土再利用検討 全国機運醸成狙う」。2025年2月21日付の毎日新聞朝刊(東京本社版)の1面トップの見出しだ[26]。記事は、中間貯蔵施設のある双葉町の伊沢史朗町長が、除染土を町内で再利用することを検討し、国と県に意向を通知したことを明らかにした、という内容だった。

取材に対して、伊沢町長はその理由について「(原発事故の)犠牲になった自治体が取り組むことで、このままでいいのかという機運を県内外で盛り上げたい」と述べたという。首都圏など県外で理解醸成が進んでいない現状を踏まえたものだった。

発言が話題を呼んだのは、除染土の再生利用が県内でも可能なのか、これまで不明確だったためだ。例えば環境省の局長が再生利用を「基本的に県外で」と国会で答弁したことがあると先に記したが、再生利用を県内でできるとした文書を筆者は見つけることができなかった。そこに伊沢町長は踏み込んだ。

その町長発言が毎日新聞の1面トップに載ったその日、浅尾慶一郎環境相(当時)が記者会見でこう語った。「最終処分については県外ということでありますが、再生利用については県外でなければならないということではない・・・・・・・・・というふうに認識しています」(傍点は筆者)。つまり、「除染土の県内再生利用はOKだ」と環境相が宣言したのだ。環境省にとり、「これ幸い」だったのだろうか。

後日、毎日新聞の関連記事に、気になる福島県幹部のコメントが載った。「再生利用だけでなく、最終処分も『福島で』となってしまう事態が県にとっては一番困る」[27]。伊沢町長発言をきっかけにして、「県外最終処分」の約束も蔑ろにされてしまうのでは、という強い懸念が福島県側にはあるのだろう。

見学会で訪ねた中間貯蔵施設内の見晴台からの撮影。福島第一原発がすぐそこに見えた。

伊沢町長発言から約1年が経った。筆者は環境省環境再生・資源循環局の担当者に、改めて伊沢町長発言への所感や最終処分についての方針などを尋ねる質問を送ったが、次のような返答を繰り返した。

「福島県外での最終処分というのは、お約束でもありますし、法律にも規定しておりますので、それに向けてしっかりとやっていくということに尽きると思います」

(6)福島を裏切ることにならないか

「廃炉で一番恐れているのは、(燃料デブリなど)取り出したものをちゃんと保管できるか、ということ……福島第一は決して広い敷地ではありませんで、取り出したものをすべて中に置けるかどうかという保証は今のところ、見通しが立っているわけではありません」

筆者は原子力市民委員会のホームページへの前回の寄稿(2025月12日8日付)で、前原子力規制委員長で「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」の廃炉統括官・更田豊志氏が、福島第一原発固有の廃炉作業の困難な事情をそのように語ったことを書いた[28]

除染土だけでなく、燃料デブリをどうするか、は極めて大きな問題だ。政府や東電の福島第一原発の廃炉に向けた現行の工程表(ロードマップ、2019年版)は、取り出した初号機の燃料デブリを「容器に収納の上、福島第一原子力発電所内に整備する保管設備に移送し、乾式にて保管を行う」としている[29]

広い置き場所が必要なのは、燃料デブリだけではない。日本原子力学会が2020年7月にまとめたレポートは、技術コンサルタントの河村秀紀氏らの試算を引用する形で、福島第一原発事故で発生する放射性廃棄物が合計で約780万トンになるとした。事故を起こしていない原発の600基分に相当する[30][31]

見学会で撮った中間貯蔵施設内に建っていた石碑の写真。「想帰郷 我が帰郷日2045年3月12日」と彫ってある。日付はここの地権者が国に貸した土地の契約が満了を迎える日を指すと、ある新聞記事で知った。名前は筆者が消した。

福島第一原発の廃炉作業がこのまま進んでいけば、燃料デブリを含む放射性廃棄物の置き場所が福島第一原発の敷地では足りないという日が、いずれ来るのではないか。

また、技術的な困難さから燃料デブリの取出しに、100年以上の時間がかかるとなった場合、福島第一原発を取り囲んでいる中間貯蔵施設の敷地の使い道も、自ずと制約されることになるだろう。

そして、除染土の県外最終処分の話にしても、復興再生利用の話にしても、これまでの環境省のやり方では、その場所はなかなか見つからないと思う。

一方、県外最終処分の期限である2045年頃、原発事故の被害を知る人がかなり減っているはずだ、などと考える官僚や政治家がいるのではないか。

結局、なし崩し的に、除染土の中間貯蔵施設への「置きっぱなし」が進み、そのうえ、放射性廃棄物の置き場所として、中間貯蔵施設の敷地も「使わせて」ということになっていくのではないか。

あくまで仮定である。だが、万が一、そんなことになれば、元のふるさとの姿に戻ると願った・信じた福島の人々に対する、国による、とてつもない「裏切り」になるはずだ。筆者はそう考える。


脚注

[1] 「除染土」は、筆者がかつて所属した朝日新聞の表記にならった。「除去土壌」や「汚染土」を使う報道機関もある。

[2] 再生利用をめぐっては、環境省が埼玉県所沢市や新宿御苑(東京都新宿区)で実証事業を計画したが、地元の反対を受けて頓挫している。

[3] 筆者は、国は福島県外で、除染土を一定量、再生利用するとみている。ただ、除染土の相当な量が中間貯蔵施設にそのまま「置きっぱなし」になるのではないか、と疑っている。

[4] https://josen.env.go.jp/chukanchozou/

[5] 視察後の会見で高市首相はこう語っている。「福島県内で生じた除去土壌ですけれども、中間貯蔵開始後30年以内、つまり2045年3月までの県外最終処分の方針というのは、国としての約束でございますので、さらに、法律にも規定されたものでございますので、国の責任だと考えております。この県外最終処分の実現に向けては、復興再生土、この利用によってですね、最終処分の量を減らしていくということが重要です」https://www.kantei.go.jp/jp/104/statement/2025/1202kaiken.html 

[6] 環境省は跡地利用で「都市公園」案を示したことがあったようだ。大熊町のホームページにあった「中間調査の事前調査について」(更新日:2013年4月15日)の中のリンク先に「中間貯蔵施設についての確認事項についての国による回答」があり、それを開くと、「施設の30年後の利活用については、例えば30年後に、都市公園などの土地として有効利用することも一案」との記述が末尾にあった。https://www.town.okuma.fukushima.jp/soshiki/kankyoutaisaku/1855.html

[7] 最近、大手シンクタンクなどからも除染土の再生利用に関する論考が出されている。例えば産業技術総合研究所(https://unit.aist.go.jp/georesenv/geosustain/envS2-9-3/file/V13N2_P33-44_2025.pdf)、三菱総合研究所(https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20240909.html)などがある。

[8] https://josen.env.go.jp/chukanchozou/action/briefing_session/pdf/preliminary_report_140603_a.pdf のP3。

[9] 2014年11月18日の参議院環境委員会における環境省水・大気環境政策局長(当時)・三好信俊氏の答弁から。

[10] 福島第一原発の敷地についても事故後、更地化を願う声があった。原子力市民委員会ホームページへの筆者の前回の寄稿(2025月12日8日付)の脚注にも記したが、例えば福島県知事と地元の13市町村長は2016年8月、経産相に対して、「燃料デブリや使用済燃料などの放射性廃棄物については……県外において適切に処分すること」などを申し入れている。https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/16025c/genan413.html また、大熊町の吉田淳町長は共同通信の取材に対し、「最後は更地に戻して終わりにしてほしい」、同じく双葉町の伊沢史朗町長は「全部きれいに整地されて、元の姿になっているのをイメージしている」と述べた、という(2020年12月3日、東奥日報など)。

[11] 例えば、朝日新聞の2022年12月28日付の記事「最終処分のはずが『30年の中間貯蔵』に」によると、南川秀樹・環境事務次官(肩書はいずれも当時)が2011年6月、佐藤雄平・福島県知事に最終処分場の県内設置を求めたが、11年8月、菅直人首相が知事と会談した際には、「中間貯蔵施設」の要請に変わっていた。さらに11年10月、細野豪志・環境相が施設の設置期限を30年以内とし、汚染土は県外で最終処分するという基本方針を示した、という。https://digital.asahi.com/articles/ASQDQ25RVQBGUGTB00H.html?_requesturl=articles%2FASQDQ25RVQBGUGTB00H.html&pn=14 なお、複数の新聞社が似たような話を記事にしているのを筆者として確認した。

[12] 震災当時、双葉町長だった井戸川克隆氏は、国と東電に対する損害賠償訴訟で、中間貯蔵施設について陳述書にこう記した。「30年で県内から県外に核廃棄物を搬出するというウソは、かねてから指摘されている……中間貯蔵施設の話が出たころは30年説は無かった、双葉郡に無理に押し込めるための後付けの方便でしかない……両町は、何処でもいらないという化け物を背負い込んでしまった」(2020年1月15日、https://idogawasupport.sub.jp/images/00_200.pdf )

[13] 中間貯蔵施設のあり方を議論する福島県の専門家会議(2013年4月28日)で、廃棄物が専門の学者がこう語っている。「今、この設計図見ると、(通常の廃棄物の)最終処分場の設計図だと見える。中間貯蔵であるならば再掘削をせざるをえない……どうやって最終的に掘り起こすのか……掘り起こす方法がないと、最終処分にもっていくというシナリオがなくなってしまうと思う」https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/haikibutsutaisaku001.html 

[14] 法制執務・法令用語研究会「条文の読み方」(有斐閣、第2版)によると、「ものとする」は、一定の義務付けを「しなければならない」よりも弱いニュアンスを持たせて規定しようとするとき、とりわけ行政機関に対して義務付けをしようとする場合に用いられる。しかし、行政機関に対する場合であっても、明確な義務付けをしようとするときは、「しなければならない」が用いられる、という。筆者はこれを大坂恵里・東洋大学教授の講演資料で知り( https://www.ccnejapan.com/wp-content/uploads/2025/11/20251108_Osaka.pdf )、同書を入手、確認した。

[15] 早稲田大学の黒川哲志教授は日本原子力学会誌に寄せた論考「除去土壌中間貯蔵施設の将来計画のあり方」で「除去土壌の最終処分地の確保は容易でない。法は不可能を強制しないという法格言に基づいてJESCO法第3条2項を訓示規定と解釈したり、国会による法律改正によって現実的な対応がなされたりする可能性がある。すると、この中間貯蔵施設をそのまま最終処分施設とすることも選択肢とされるかもしれない。これを踏まえた将来計画の策定が必要」とした。(日本原子力学会誌 2024年66 巻 8号)https://researchmap.jp/read0181648/published_papers/46838672  

[16] 原子力資料情報室は2016年6月30日、「環境省:除去土壌の再生利用 二重基準隠しに抗議」と題した声明を発表した(https://cnic.jp/7086)。抜粋すると「環境省は放射性廃棄物のセシウム濃度について、放射性物質汚染対処特措法に基づく8000Bq/kgが『廃棄物を安全に処理するための基準』、原子炉等規制法に基づく100Bq/kgが『廃棄物を安全に再利用するための基準(クリアランスレベル)』と説明している。放射性物質汚染対処特措法に基づく8000Bq/kg以下の除去土壌の再生利用は、原子炉等規制法の100Bq/kg以下のクリアランスレベルの80倍である。このままでは原子炉等規制法の基準と放射性物質汚染対処特措法の基準が併用されるダブルスタンダード(二重基準)の状態となる」と指摘した。 

[17] さらに環境省は2025年9月、除染土のうち放射性物質の濃度が8000Bq/kg以下の土の呼称について、「復興再生土」とすることを決めたと発表した。8000Bq/kg超の土と区別し、安全性への理解を広げるためだ。これもイメージ戦略の一つと言える。https://www.env.go.jp/annai/kaiken/kaiken_00323.html 

[18] https://impact-shuppankai.com/products/detail/357 

[19] 正式名は「中間貯蔵施設の周辺地域の安全確保等に関する協定書」。https://josen.env.go.jp/chukanchozou/action/acceptance_request/pdf/agreement_150225.pdf

[20] 筆者はこの協定をめぐる交渉・協議記録につき、各方面に情報公開請求をしたが、有益な資料が開示されたのは大熊町役場だけだった。

[21] https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/saisei_riyou/dai3/siryou2.pdf なお、公表資料にはまだ(案)の文字が付いている。

[22] 環境省は2016年3月、除染土の最終処分の方向性の検討や再生利用推進のための中長期的な工程表案をまとめ、有識者会議に示している。この10年間、大きな前進がないことが確認できる。https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/proceedings_160330_02_02.pdf

[23] https://digital.asahi.com/articles/ASTDB3D0WTDBUTFL018M.html

[24] https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/

[25] まさのあつこ氏は日々、原子力関連の動きを精力的にXに投稿し、noteでも「地味な取材ノート」を書き続けている。https://note.com/masanoatsuko/

[26] https://mainichi.jp/articles/20250220/k00/00m/040/294000c

[27] https://mainichi.jp/articles/20250317/ddm/003/040/103000c

[28] https://www.ccnejapan.com/column/19898/

[29] https://www.tepco.co.jp/decommission/information/committee/roadmap/pdf/2019/t191227_04-j.pdf

[30] https://www.aesj.net/aesj_fukushima/fukushima-decommissioning 河村氏らの試算はこちらに。 https://www.euronuclear.org/archiv/topsafe2017/pdf/fullpapers/TopSafe2017-A0012-fullpaper.pdf 

[31] 福島第一原発の廃炉のあり方について考える「1F廃炉の先研究会」(代表=松岡俊二・早大教授)は2026年3月10日、2051年までの廃炉完了をめざす政府と東電の目標について、見直しを求める提言を公表した。提言は現状では廃炉の最終形を示すのは難しいとの見方を示したうえで、使用済み核燃料と燃料デブリ、放射性廃棄物を安定的に管理できる状態を「中間目標」とすることを提案。また、「1F廃棄物と中間貯蔵施設の廃棄物を統合的に管理する多様な可能性を柔軟に検討すべき時期にきている」などとした。https://prj-matsuoka311.w.waseda.jp/research/

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この記事を書いた人

小森 敦司 フリージャーナリスト、行政書士

1964年生まれ。上智大学法学部卒。1987年に朝日新聞社に入社、経済部やロンドン特派員、エネルギー・環境担当の編集委員などを経て2021年に退社、フリージャーナリストに。著書に「日本はなぜ脱原発できないのか」「『脱原発』への攻防」(いずれも平凡社新書)、「原発時代の終焉」(緑風出版)など。2024年、行政書士事務所を開業。

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