声明「原子力規制委員会は火山影響評価ガイドの死文化を撤回せよ」を発表しました(2018/5/31)

2018年5月31日
原子力市民委員会
「声明:原子力規制委員会は火山影響評価ガイドの死文化を撤回せよ」
を発表しました
原子力市民委員会

 
 原子力市民委員会は、本日、原子力規制委員会に対して、「原子力発電所の火山影響評価ガイドにおける『設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価』に関する基本的な考え方について」(以下「基本的考え方」と略記)を撤回することを求める声明を発表しました。

 「基本的考え方」は、2018年3月7日に開催された原子力規制委員会第69回会議において、原子力規制庁から示されたもので、「原子力発電所の火山影響評価ガイド」そのものを改正するものではありません。しかし、その内容は、火山ガイドの立地評価の規定を、事実上「死文化」させる内容になっています。

 原子力市民委員会は、原子力規制委員会および原子力規制庁が、予知の難しい火山噴火に対する規制を、一片の内部文書にすぎない「基本的考え方」によって不問に付するという決定自体が、規制機関としての使命を放棄する行為であること、しかも、科学的・技術的専門性に基づいてリスクを定量評価しながら規制を行うことを国民から負託された組織が、その責任を放棄して、「社会通念」という責任主体のありかも判断基準も不明な恣意的概念に逃避していることを指弾し、「基本的考え方」という文書を破棄して、火山噴火対策を規制基準の中に正統に書き加えることを求めます。

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2018年5月31日

「声明:原子力規制委員会は火山影響評価ガイドの死文化を撤回せよ」

原子力市民委員会

1.「設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価について」
 2018年3月7日に開催された原子力規制委員会第69回会議において、原子力規制庁から、「原子力発電所の火山影響評価ガイドにおける『設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価』に関する基本的な考え方について」という文書が示された(以下「基本的考え方」と略記)。これは、更田豊志原子力規制委員会委員長の指示によって作成された原子力規制庁名義の文書であり、「原子力発電所の火山影響評価ガイド」(以下「火山ガイド」と略記)そのものを改正するものではない。しかし、その内容は、火山ガイドの立地評価の規定を、事実上「死文化」させる内容になっている。この「基本的考え方」で、大きな問題をはらんでいるのは以下の部分である(下線は引用者)。

2.巨大噴火の可能性評価の考え方について
〇巨大噴火の可能性評価に当たっては、火山学上の各種の知見を参照しつつ、巨大噴火の活動間隔、最後の巨大噴火からの経過時間、現在のマグマ溜まりの状況、地殻変動の観測データ等から総合的に評価を行い、火山の現在の活動状況は巨大噴火が差し迫った状態にあるかどうか、及び運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理性のある具体的な根拠があるかどうかを確認する
〇巨大噴火は、広域的な地域に重大かつ深刻な災害を引き起こすものである一方、その発生の可能性は低頻度な事象である。現在の火山学の知見に照らし合わせて考えた場合には運用期間中に巨大噴火が発生する可能性が全くないとは言い切れないものの、これを想定した法規制や防災対策が原子力安全規制以外の分野においては行われていない。したがって、巨大噴火によるリスクは、社会通念上容認される水準であると判断できる

2.巨大噴火の頻度
 この「基本的考え方」が対象とする「巨大噴火」とは、「地下のマグマが一気に地上に噴出し、大量の火砕流によって広域的な地域に重大かつ深刻な災害を引き起こすような噴火であり、噴火規模としては、噴出物の総量が数10km3を超えるような噴火を指している」と定義されている。
 しかるに、日本では過去12万年間に30km3以上の火山噴火は17回発生している。これは、およそ7,000年に1回の割合となる1
 一方、原子力規制委員会は、「実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方について」2の「§2 2-6 安全目標と新規制基準の関係」の「2(2)原子力規制委員会での安全目標の議論」に、原子炉の安全目標が次のように記載している。
  ・炉心損傷頻度ついて「10-4/年程度」
  ・格納容器機能喪失頻度について「10-5/年程度」
 つまり、対象規模の火山噴火は、1万年に1度という「安全目標」を上回る頻度で発生しているのである。後期更新世以降(約12~13万年以降)に火砕流に襲われたとみられる地域に立地している日本の原子力発電所はいくつもある。
 「基本的考え方」は「巨大噴火によるリスクは、社会通念上容認される水準であると判断できる」と述べているが、この言葉は、原子力規制委員会に寄せられてきた国民の期待と信頼を一挙にかなぐり捨てるものである。なぜなら、同委員会は、高度の科学的、専門技術的な識見をもってリスクの定量評価を行いつつ、客観的な安全規制を実施することが使命とされてきたからである。その委員会が、科学上の定量的リスク評価を放擲して、「社会通念」という、責任主体のありかも判断基準も不明な概念の中に逃避してしまったことは、同委員会の設立根拠を根底から否定するものである。その時々の「社会通念」に基づいてなされた諸種の意思決定が数々の悲劇や破滅をもたらした教訓は、古今東西の歴史を顧みれば、枚挙にいとまがない。

3.火山噴火予知の困難性
 火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣前会長は、2014年の川内原発の再稼働に向けた規制審査に際して、一貫して火山噴火予知の困難性を主張していた。たとえば、『週刊東洋経済』のインタビューでは次のように述べている。「現在の火山噴火予知のレベルでは、数十年に及ぶ原発の運用期間での噴火予知は不可能ということだ。そもそも、そうした長期間での噴火予知の手法自体が確立していない。噴火を予知できるのは、せいぜい数時間から数日というのが現状だ。2011年の霧島新燃岳の噴火のように、地震などの前兆がなかったため、予知すらできないうちに噴火が起きることもしばしばある」3
 原子力発電所において、大規模な放射能飛散を防止するには、火山噴出物が到達する前に使用済み核燃料を安全な場所に移動しておかなければならない。そのためには、火山噴火の数年前にそれを予知し、使用済み核燃料を数年間プール内で冷却し、その後にドライキャスクに収容するなどして首尾よく移送を終わらせなければならない。しかし、それを可能とするような噴火予知は、現状では無理だというのが、火山専門家たちの一致した意見である。
 「基本的考え方」は、「巨大噴火は(中略)、その発生の可能性は低頻度な事象である」と断定し、「したがって、巨大噴火によるリスクは、社会通念上容認される水準であると判断できる」と断言している。しかし、実態は前項に述べた通り、炉心損傷頻度の1万年以下、格納容器機能損失頻度の10万年以下よりも高い。それにもかかわらず重大視されなかったのは、単に世間の耳目が集まらなかったために認識が遅れたに過ぎない。

4.手続き上の不備
 2013年に新規制基準が決定される過程で、基準案がパブリックコメントにかけられ、多数の熱心な意見が寄せられた。その上で現行の新規制基準が制定され、それに基づいて基準適合性審査が行われている。火山リスクは、地震や津波のリスク同様に原子力発電所に深刻な危険性を及ぼすものであるから、原子力規制庁が一片の「基本的考え方」を示して、「運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的合理性のある具体的な根拠があるとはいえない場合は、少なくとも運用期間中は、『巨大噴火の可能性が十分に小さい』と判断できる」と断定し、以後、火山リスクを問わないということは、規制審査対象の重要な1項目を不問に付すという決定に等しく、規制業務の放棄に等しい。むしろ、単なる規制庁の内規で済ませていた主要リスク項目を規制基準に取り込み、新たにパブリックコメントを実施して、正当に審査する基準を設定することが必要である。

5.まとめ
 以上、原子力規制委員会および原子力規制庁が、予知の難しい火山噴火に対する規制を一片の内部文書で不問に付するという決定自体が規制機関としての使命を放棄する行為であること、しかも、科学的・技術的専門性に基づいてリスクを定量評価しながら規制を行うことを国民から負託された組織が、その責任を放棄して、「社会通念」という責任主体のありかも判断基準も不明な恣意的概念に逃避していることを指弾し、「基本的考え方」という文書を破棄して、火山噴火対策を規制基準の中に正統に書き加えることを求める。

以 上

 


1 高橋正樹『破局噴火』祥伝社新書、2008年、p.70
2 原子力規制委員会「実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方について」
 (2016年6月29日策定、8月24日改訂)p.83
 https://www.nsr.go.jp/data/000155788.pdf
3 「規制委の火山リスク認識には誤りがある」『東洋経済ONLINE』2014年8月10日
 http://toyokeizai.net/articles/-/44828


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