「声明:対策地域内廃棄物に含まれる高濃度PCB廃棄物の処理は拙速に進めるべきではない」を発表しました

                原子力市民委員会                             「声明:対策地域内廃棄物に含まれる高濃度PCB廃棄物の処理は 拙速に進                                                        めるべきではない」                          を発表しました

 

声明:対策地域内廃棄物に含まれる高濃度PCB廃棄物の処理は拙速に進めるべきではない」 pdficon_s

 東京電力福島第一原発事故の汚染廃棄物対策地域内にある高濃度ポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物の処理について、環境省は今年7月に室蘭市にあるPCB廃棄物処理施設へ搬送し、処理を実施する方針を示し、住民の反対や懸念の声が挙げられる中、室蘭市は12月10日に環境省方針の受け入れを表明しました。
 今回の処理にあたって、環境省は放射性物質汚染対処特措法を適用するとしていますが、北海道PCB処理事業所を室蘭市が受け入れた際には想定されていなかったことです。また、放射線管理区域から持ち出し可能な表面汚染密度を準用するという基準も、法的根拠が錯綜しています。
 福島原発事故由来の放射性物質の管理においては、処理方針の矛盾や規制の不備を抱えたまま、二重基準(ダブルスタンダード)が推し進められており、体系的な最終処分のあり方の再構築が求められます。
 こうした状況を受け、原子力市民委員会は12月13日に声明を発表しました。

2021年12月13日
声明:対策地域内廃棄物に含まれる高濃度PCB廃棄物の処理は拙速に進めるべきではない

原子力市民委員会                         座  長:大島堅一 座長代理:満田夏花                    委  員:荒木田岳 大沼淳一 海渡雄一 金森絵里      後藤政志 島薗 進 清水奈名子 筒井哲郎      伴 英幸 松原弘直 除本理史

 環境省は現在、東京電力福島第一原発事故の汚染廃棄物対策地域内での高濃度ポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物の処理方針を確定させようとしている(環境省福島地方環境事務所「福島県対策地域内の高濃度PCB廃棄物の処理について」※1 )。  今年3月、環境省は室蘭市で開催された北海道PCB廃棄物処理事業監視円卓会議(第51回、事務局は北海道および室蘭市)でこの方針案を示し、7月に第1回住民説明会、8~9月にパブリックコメントを実施、11月初旬にも室蘭市で住民説明会を開催した。12月10日、室蘭市は市議会民生常任委員会で、環境省の方針を受け入れる考えを表明した。
 この方針は、放射性物質汚染対処特措法※2 に基づき、国の責任の下で処理を行う「対策地域内廃棄物」に含まれる高濃度PCB廃棄物を、放射線管理区域からの持ち出しが認められる表面汚染密度の基準(4Bq/cm2以下)を自主的に準用し、中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)の北海道PCB処理事業所(室蘭市)へ搬送して、処理を行うというものである。
 PCB特措法※3 に基づく「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画」では、2011年以前より福島県を含む東北地方、また北海道・北関東・甲信越・北陸地方のPCB廃棄物を北海道PCB処理事業所で処理することが定められている。しかし、この処理に放射性物質汚染対処特措法を適用することで、環境省の方針によれば、処理等に伴って周辺住民が追加的に受ける線量の上限が年間1ミリシーベルトで管理されるという。この線量上限は、原発や放射線施設の敷地境界において一般公衆が受ける被ばく量の上限値とされる値であり、原子炉等規制法で定めたクリアランスレベル(再利用・再使用によって受ける線量が年間10μシーベルト以下)の100倍に相当する。  4Bq/cm2の基準は、クリアランスレベルとの矛盾はないとされる※4 ものの、そもそもクリアランスレベルとの関係を考慮して設定された基準ではない。あくまで放射線管理区域からの持ち出しに関する基準であり、これを対策地域から持ち出す際に適用するのは無理がある。かつ、環境省はこの基準適用をあくまで自主的に行うものとしており、法的根拠もない。このような事態は、室蘭市がPCB処理事業所を受け入れた際には想定されていなかったものであり、何重にも無理を重ねた状態である。
 この方針は、事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理に関する根本的な矛盾を露呈している。放射性物質汚染対処特措法によれば、対策地域内廃棄物には廃棄物処理法や原子炉等規制法の規定を適用しない(法第22条)。これにより廃棄物はクリアランスレベルの適用から外れることになる。一方、同法の基本方針では、廃棄物処理法に基づく廃棄物の処理体制、施設等を可能な範囲で積極的に活用するとしている。この法と基本方針の間にあるズレを利用するかのように、(廃棄物処理法の特別法であるPCB特措法を根拠に)北海道PCB処理事業所で、(放射性物質汚染対処特措法を根拠に)年間1ミリシーベルトの線量上限値をもって、対策地域の外での処理が行われようとしている。
 原子力市民委員会は、福島原発事故後、放射能をおびた物質の管理に関して二重基準(ダブルスタンダード)がつくられ、その適用範囲がなし崩しに広がることの問題点を幾度となく指摘してきた※5 。また、放射性物質汚染対処特措法に基づく処理の過程では、バグフィルター等の設備が必ずしも機能していないことの問題も明らかになっている※6 。  PCBはカネミ油症事件を契機として厳しい規制の対象となった物質であり、適正な処理の必要性はある。しかし、処理方針の矛盾や規制の不備を放置したまま、拙速な処理を実施すべきではない。政府は、いったん今回の方針を取り下げ、国民の熟議と合意に基づき、福島原発事故由来の放射性廃棄物の体系的な最終処分のあり方を再構築すべきである。

以 上

 

本件についての問い合わせ先:原子力市民委員会 事務局
〒160-0003 東京都新宿区四谷本塩町 4-15 新井ビル 3 階
(高木仁三郎市民科学基金内)
TEL/FAX: 03-3358-7064
Email: email@ccnejapan.com

 

※1 環境省福島地方環境事務所「福島県対策地域内の高濃度PCB廃棄物の処理について」(令和3年11月)http://shiteihaiki.env.go.jp/initiatives_fukushima/waste_disposal/pdf/processing_fukushima_pcb_policy.pdf
※2 福島第一原発事故を受け、2011年8月公布、2012年1月全面施行。
※3 「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」。2001年7月施行。中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)を通じて、全国5箇所に処理施設を整備。
※4 たとえば日本保健物理学会「計画被ばく状況における汚染した物の搬出のためのガイドライン」の「解説」における計算例。http://www.jhps.or.jp/cgi-bin/news/page.cgi?id=34
※5 原子力市民委員会『原発ゼロ社会への道 2017 ― 脱原子力政策の実現のために』第3章 pp.120-125(2017 年 12 月)http://www.ccnejapan.com/?p=8000 原子力市民委員会「声明: 環境省は除染土の再生利用と安易な処分をやめ、国民の熟議と合意にもとづいた最終処分のあり方を提示せよ」(2019年5月)http://www.ccnejapan.com/?p=9951 原子力市民委員会「声明: 環境省は放射性物質の無秩序な拡散につながる除去土壌の再生利用方針を撤回し、事故由来放射性廃棄物・除去土壌の体系的な最終処分のあり方を再構築せよ」(2020年2月)http://www.ccnejapan.com/?p=10796
※6 原子力市民委員会特別レポート7「減容化施設と木質バイオマス発電 ― 肥大化する除染ビジネス、拡散するリスク」http://www.ccnejapan.com/CCNE_specialreport_7.pdf

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