設立にあたって

2013年4月15日

「原子力市民委員会」の設立にあたって

認定NPO法人 高木仁三郎市民科学基金
代表理事 河合弘之

 東日本大震災と福島第一原発事故から二年が経ちました。自然の脅威とともに近代文明が生み出した巨大科学技術である「原子力発電」の本質を目前にし、多くの人々が一日も早い脱原発への政策転換を望むようになりました。しかしながら、事故炉の安定の確保にはほど遠く、多くの被災者が故郷に戻れぬ一方、生活再建の見通しも立たないという過酷な状況にある中で、長年多くの警告を無視して原子力政策を推し進めてきた政党が政権につき、事故の責任を不問に付したまま、福島原発事故から目をそむけ、あるいはなかったものとして、原発再稼働への動きを強めています。

 すでに破綻を来している原子力政策を再び政府が推し進めようとするのであれば、われわれ市民は市民の手で、多数の民意に立脚した脱原子力政策をつくり、実現してゆくよりほかありません。

 高木仁三郎市民科学基金(高木基金)では、これまで助成活動を通じてつながりのあった市民グループや自然科学・社会科学・人文科学にわたる幅広い科学者、技術者、弁護士などの方々とともに、この局面において市民が取り組むべき課題について検討を行い、この度、脱原発社会を構築するにあたっての課題を把握・分析し、政策をつくる場として、「原子力市民委員会」を立ち上げることになりました。原子力市民委員会では、次の4つの課題に取り組み、今後一年かけて「脱原子力政策大綱」をまとめ、その成果を広く市民に伝えるとともに、関係機関(主に復興庁、原子力委員会、総合資源エネルギー調査会、原子力規制委員会)等に提言を行います。

<原子力市民委員会が取り組む4つの課題>:
 ・東電福島第一原発事故の被災地対策・被災者支援をどうするか
 ・使用済核燃料、核廃棄物の管理・処分をどうするか
 ・原発ゼロ社会構築への具体的な行程をどうするか
 ・脱原発を前提とした原子力規制をどうするか

 これらの政策をまとめる過程では、市民が現状を認識し、幅広い人々による民主的な議論が行われる場を設けていきたいと考えています。また、緊急的な課題については、随時提言を行っていく予定です。福島原発事故の収束と被災者の方々の一日も早い生活の再建、そして脱原発社会の道筋を拓くための政策をまとめ、その実現をめざすには、あらゆる分野の専門家・研究者ならびに市民の英知を結集することが不可欠です。原子力市民委員会の活動に、多くの人々が関心を寄せ、参加してくださることを願っています。

 この取り組みは、高木基金の従来の助成活動(調査研究助成、研修奨励、委託研究)の枠組みを超えた特別事業として実施します。今後、高木基金は、原子力市民委員会に対する資金及び運営面での支援を行いますが、委員会での決定や活動内容は、高木基金から独立して行われます。

 脱原発社会の実現の過程では、厳しい議論や提言を避けて通るわけにはいきません。この委員会では、全ての子どもたちや将来世代に「原発のない、豊かで持続可能な日本社会」を手渡すために、それぞれの立場や意見の違いを超えた民主的な議論を重ね、知力・知恵を絞ることに力を尽くしたいと考えています。

 高木仁三郎は、「友へ」と題した最後のメッセージで次のように書き残しました。「原子力時代の末期症状による大事故の危険と、結局は放射性廃棄物がたれ流しになっていくのではないかということに対する危惧の念は、今、先に逝ってしまう人間の心を最も悩ますものです。後に残る人々が、歴史を見通す透徹した知力と、大胆に現実に立ち向かう活発な行動力をもって、一刻も早く原子力の時代にピリオドをつけ、その賢明な終局に英知を結集されることを願ってやみません」。福島原発事故を受けて、高木基金には多くの市民の方々から会費や寄付が寄せられ、大口の寄付をくださった方もありました。こうした支援がなければ、原子力市民委員会の発足はありませんでした。心から感謝を申し上げるとともに、今後とも、原子力市民委員会の活動への多くの方からのご賛同、ご支援、ご協力をいただけますよう、よろしくお願いいたします。


■高木仁三郎市民科学基金(高木基金)とは
高木基金は、原子力時代の一日も早い終焉をめざして生涯をかけた核化学者・高木仁三郎(1938-2000)の遺志に基づき、2000 年に発足した民間の助成団体です。現代の科学技術がもたらす負の影響や脅威に対する科学的な考察に裏づけられた批判のできる「市民科学者」の育成・支援を目的に、原発や核の問題にとどまらず、廃棄物や有害化学物質など、現代社会が抱える様々な問題の解決をめざす調査研究・研修への助成活動を行っています。その財源は、一般の市民からの会費や寄付に支えられています。2001 年9 月、NPO 法人として法人格を取得後、2006 年4 月に認定NPO 法人となりました。http://www.takagifund.org/