原子力市民委員会は2019年10月10月3日に発表した「ALPS処理水取り扱いへの見解」について、寄せられた意見やコメントを受け、補足を公表しました。
本補足では、原子力市民委員会の基本的立場として、汚染水を海洋放出すべきではないことを改めて示しています。そのうえで、長期陸上保管案として提案した「モルタル固化」と「大型タンク長期保管」について、モルタルとコンクリートの違い、水との配合比率、汚染水の蒸発、廃棄物の総量、実現性、タンクの密閉性やスロッシング対策を補足しています。
「ALPS 処理水取り扱いへの見解」についての補足
「ALPS処理水取り扱いへの見解」についての補足(PDF版)![]()
2019年10月11日
原子力市民委員会 原子力規制部会
私たちが10月3日に発表した「ALPS処理水取り扱いへの見解」(以下「見解」)について、SNSなどを含めて寄せられた意見、コメントなどを受け、以下の通り、原子力市民委員会としての立場をあらためて述べるとともに、モルタル固化について4点、大型タンクでの長期保管について1点を補足します。
1.原子力市民委員会の基本的立場
原子力市民委員会は、汚染水を海中放出すべきではないということを従来から提言してきましたが、今回の「見解」では、既存の技術で十分実施可能な「長期陸上保管案」として、「大型タンク保管」および「モルタル固化」を提案しました。
東京電力は、廃炉事業において、デブリの取り出しを大前提として、デブリの一時保管場所や、(必ずしも敷地内に設置すべきかどうか不明な)研究・訓練施設等の敷地の確保が必要だと説明していますが、原子力市民委員会としては、デブリの取り出し自体について見直すべきであると考えています。(詳しくは、特別レポート1『100年以上隔離保管後の「後始末」』2017改訂版をあわせてお読みください。)
2.モルタル固化:コンクリートとモルタルの違いおよび水との配合比率について
今回の「見解」で、私たちは、ALPS処理水のモルタル固化を提言しましたが、SNSなどでは、モルタルについての基礎的な部分に誤解があるようなコメントも見受けられましたので、まず前提となることをあらためて整理します。モルタル、コンクリートと、その素材であるセメントの違いは以下の通りです。

SNSなどでのコメントでは、モルタル固化に関して、水(汚染水)が蒸発するという指摘がありました。
モルタル固化において、水はセメントと反応し、水和物としてモルタルの中に取り込まれます。水和反応に際して熱が発生しますが、それを考慮した上でも、モルタル固化に関わる汚染水の蒸発量は、わずかなものだと思われます。
(「見解」についての記者ブリーフィング資料
そもそも、モルタル固化は、経産省の「トリチウム水タスクフォース」で検討された処分方法
モルタル固化の場合、廃棄物の総量が増えること、(原子力市民委員会が示した)米国サバンナリバーの核施設に比べて、福島第一では、桁違いに多くなるのではないかという声もありました。
2.で示したように、水の配合比率から、廃棄物としての容積が増えてしまうことは、原子力市民委員会としても認識しており、「見解」にもそのことを明示しています。
サバンナリバーに関するレポート「SRS Liquid Waste Planning Process Rev.21 (Jan.2019)」
「海水で希釈して海洋に放出するより手間がかかりそうなモルタル固化を、いまの東電に実行できるか。」という主旨の声もありました。
モルタル固化自体は、既存の技術であり、経産省の「トリチウム水タスクフォース」でも選択肢として検討されたものですから、私たちは現実的な方法だと考えています。たしかに、1,000億円以上の予算が必要となると思われますが、東京電力が、現在、柏崎刈羽原発や東通原発の再稼働、東海第二の再稼働・運転延長への経済的支援などをすすめようとしていることを考えれば、それらに関わる予算や人的な資源を、まずは汚染水の処理に投入し、責任を持って対処すべ課題であると、私たちは考えています。
大型タンクでの長期保管について、「石油備蓄などのタンクは浮屋根式で、密閉できない」、「長期保管するとトリチウムが全量気化してしまう」、「地震の際には、スロッシングでタンクが破壊する可能性がある。タンク内に仕切りを大量に設置すると、溶接の際に、外周の金属が脆化するのではないか。放射線による脆化もある」という主旨のコメントもありました。
私たちの「見解」では、汚染水のタンクは、(汚染水は原油のような低沸点可燃物を含むわけではないので)浮屋根式は採用せずに、水封管を通じて大気と繋がったドーム型とすることを前提に提案しています。なお、原油備蓄で使用される浮屋根式は密閉式であり、トラブル時に摺動部からの漏えいの可能性はあるとはいえ、ごくわずかです。
また、タンク保管によりトリチウムが全量気化するというのは大げさであり、気化を懸念するとすれば、3.で述べたような水封ベントが設置されていない、現状の汚染水タンクについて考えるべきです。
次に、スロッシング(地震等の外部からの長周期の振動により、タンク内の水が揺動すること)の対策は、内部に邪魔板等を入れて抑える方法が考えられますが、タンク本体に溶接する場合の「脆化」が問題になるのは板厚が厚い場合であり、溶接後に焼鈍等が必要になる可能性はあります。詳細設計の段階で、諸寸法と板厚、材質、強度を検討した上で決定するものと思いますが、脆化が問題となり、実現できないことはないと考えます。また、金属材料の放射線による照射脆化は、原子炉近傍の中性子による高放射線環境下の話で、トリチウムのような透過力の弱いベータ線では、全く問題ないと考えます。
