原子力市民委員会 「講演録:福島第一原発事故と市民の健康 ――放射線疫学を読み解くためのデータ分析入門」 発行のお知らせ


原子力市民委員会
「講演録:福島第一原発事故と市民の健康 ――放射線疫学を読み解くためのデータ分析入門」 
発行のお知らせ


「講演録:福島第一原発事故と市民の健康 ――放射線疫学を読み解くためのデータ分析入門」pdficon_s

著 者:濱岡 豊(慶応義塾大学商学部教授、CCNE福島原発事故部会)


 2011年の福島原発事故以降、放射線の影響について、「100ミリシーベルト以下の線量なら発がんリスクなし」という言葉を私たちは何度も聞かされてきました。また、事故後に福島県内で実施されている甲状腺がん検査(「県民健康調査」)では、「がんまたはその疑い」と診断された子どもや若者が250名を超えました(2021年1月時点)が、公式には「被ばくとの関連は認められない」という見解がくり返されています。
 こうした評価は、何を根拠に、誰によって、どのようになされているのでしょうか? それを知ることは、市民の健康にかかわるとても重要な問題ですが、「放射線疫学」や「データ分析」の難解な専門用語や計算式などに阻まれ、市民の目には真実が見えにくくされているのが現状です。

 本冊子は、こうした疑問に答え、市民が数字にまどわされず、数字の信頼度や背景にある考え方の是非を読み解きながら放射線による健康影響の問題に向き合っていくことをめざして、作成されました。3章立てで、1章では、放射線の健康影響の評価手法を理解するために、外食支出とお小遣いという身近な例を通じて「データ分析の基礎」をおさえます。2章「放射線疫学入門」では、この分野でもっとも重視される広島・長崎の原爆被爆者の追跡調査について、被ばく量と健康影響には直線的な関係があること、被ばく量が同じでも若いときに被ばくをした人ほどがんで亡くなるリスクが高まることなどこれまでに分かっていることを紹介しつつ、分析方法の問題点を指摘します。3章では「福島県の県民健康調査における甲状腺検査」から分かっていること、そこでの問題点を読み解きます。巻末には、「統計学や被ばく影響を学ぶ・考えるための文献」も紹介しています。1章で取りあげるデータは、下記のリンクにエクセルファイルで公開していますので、興味のある方は自分で分析するとより深く理解できるでしょう。
http://news.fbc.keio.ac.jp/%7Ehamaoka/cgi-bin/fswiki/wiki.cgi?page=FDNP

 本冊子は、原子力市民委員会・福島原発事故部会(第1部会)に所属の濱岡豊さん(慶応大学商学部教授)による公開講座(2019年10月、宇都宮大学での「原発事故と市民の健康―ICRP 新勧告案と関連データを読み解く―」)の内容に補足説明や新情報を加えたものです。平易な説明を心がけていますが、統計学の初心者や「数字」が苦手であればあるほど、本書自体、難しい内容であることは否めません。それでも、繰り返し読むうちに、以下のようなことがわかってきます。

point  放射線疫学というと難しく感じるが、小中学校で誰もが経験した、データをグラフにプロットし、直線や曲線をあてはめるという作業が基本である(p.6~)。

point  お小遣い1,000円の人と5,000円の人を「5,000円以下」にまとめてしまう。プロットして全体をみると右上がりの直線的な関係がみえるのに、一部を拡大すると平坦にみえるので、二つの変数には関係がないと主張する。これらはいずれも適切ではないが、放射線疫学では、このような分析が行われている(p.11~)。

point  広島・長崎の被爆者のデータ分析では、全データを用いた場合、100ミリシーベルト以下の線量なら発がんリスクなしとする「閾値モデル」よりも、線量に応じてがんのリスクが増加するとする「線形モデル」の方が当てはまりがよいという結果が得られている。しかし、被ばく量が低い方のみを分析するとサンプルサイズが小さくなることなどによって、影響が検出できなくなる。このような不適切な分析の結果が強調されている(p.22~)。

point  広島・長崎の被爆者データ分析から、放射線被ばくは甲状腺がんのみならず、結節、良性腫瘍、嚢胞なども引き起こすという結果が得られている。福島原発事故後の調査でも、甲状腺がんのみならず、これらについての分析が必要である(p.22)。

point  福島県民健康調査検討委員会では、福島県を4つの地域に区分(避難区域等、中通り、浜通り、会津地方)して評価しているが、各地区内に被ばく量の高低のある市町村が混在しており、被ばくによる地域差を検出しにくくなっている。2011~2013年に行われた甲状腺検査の1巡目では、地域差がないことから「放射線の影響とは考えにくい」と結論づけられたが、他の研究者は別の区分をすることによって有意な関係を見いだしている。1巡目の結果は、不適切な地域区分による可能性がある(p.28~)。

point  甲状腺検査の2巡目では、上記の4地域区分において、被ばく量が高い地域ほど甲状腺がんの発見率が高いことが見いだされたにもかかわらず、この分析を破棄した(p.31~)。

point  代わって行われた分析では、被ばく時年齢5歳以下を除外し、6 〜14 歳、15歳以上に分けて分析した。さらに、59市町村の被ばく量の推定値を4区分するなど適切とはいえない分析が行われた。これにより、放射線疫学の過去の基礎的な知見と反する「被ばく量が多い地域の方が甲状腺がんの発見率が低い」という結果が得られたにも関わらず、県民健康調査検討委員会、甲状腺検査評価部会では問題とされないまま、「甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない」と結論づけられた(p.35~)。

point  2巡目までは59市町村別の甲状腺検査の結果が公開されていたので、外部の研究者による分析が行われ、被ばく量と甲状腺がんの発見率には有意な関係があるという報告が複数されている。しかし、3巡目以降、59市区町村別の結果は非公表とされ、外部の研究者による分析や検証はほぼ不可能となった(p.37~)。

 福島県民健康調査には、調査の設計そのものや分析・集計方法において、上記のような問題が見られるにもかかわらず、不問にされたまま、近年では検討委員会内外から「調査の規模を縮小すべき」などといった声が聞かれます。このような動きは、原発事故による健康影響を「見えにくくする」「なかったことにする」ことにつながります。

 私たち原子力市民委員会は、福島県民健康調査は甲状腺がんの早期発見・早期治療につながっており、本来は国が主体となって、対象者の地理的範囲をより広い地域に広げた上で、実施すべきであると考えています。本冊子を通じて、多くの市民が問題の所在を把握し、市民の健康を守るための行動につながればと考えています。

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【目次】
発行にあたって
まえがき
1章 統計学(データ分析)の基礎
  マーケティングデータを読む
  補論 1 仮説検定の考え方
  データ加工の影響
  まとめ
2章 放射線疫学入門
  広島・長崎の被爆者の寿命調査と分析方法
  被爆者データ分析からの知見
  閾値モデルの考え方
  分析の問題点
  質疑応答
  まとめ
3 章 福島県の県民健康調査における甲状腺検査
  調査の概要・現状
  補論 2 リスク、オッズ、リスク比、オッズ比について
  地域分析に代わる不適切な分析
  補論 3 外部研究者による甲状腺検査の分析結果
  まとめ
統計学や被ばく影響を学ぶ・考えるための文献紹介

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