原子力市民委員会「声明:パリ協定長期戦略は原発ゼロ社会の実現を前提にすべき」を発表しました

「声明:パリ協定長期戦略は原発ゼロ社会の実現を前提にすべき」
を発表しました

 

 2019年6月28日・29日に大阪で開催されたG20サミットに間に合うように、日本の「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」が国連に提出されたことを受け、原子力市民委員会は「声明:パリ協定長期戦略は原発ゼロ社会の実現を前提にすべき」および「The Long-term Strategy under the Paris Agreement Should Take the Realization of a Nuclear-Free Society as its Premise」を発表しました。

「声明:パリ協定長期戦略は原発ゼロ社会の実現を前提にすべき」pdficon_s

The Long-term Strategy under the Paris Agreement Should Take
 the Realization of a Nuclear-Free Society as its Premisepdficon_s


2019年6月28日

「声明:パリ協定長期戦略は原発ゼロ社会の実現を前提にすべき」

原子力市民委員会

 大阪で開催されるG20サミットに間に合うように国連にようやく提出された日本の「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」は、第5次エネルギー基本計画やパリ協定長期成長戦略懇談会の提言をベースに策定されたもので、長期的な原発の維持や延命政策を前提としており、多くの問題点がある。日本政府は、原発の様々な問題点を直視し、早期に原発ゼロ社会を実現することを前提に政策を形成すべきである。その上で、再生可能エネルギーの野心的な導入目標や国際的に責任のある温室効果ガスの削減目標を含む、日本社会を持続可能で真に豊かなものにする長期戦略へと全面的に作り直すべきである。

1.原子力発電の根本的な問題点を直視し、原発ゼロを目指すべきである。
 国連に提出された日本の「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(2019年6月11日閣議決定)*1は、長期的にあらゆる選択肢を追求するとして、非現実的な原子力発電の維持に固執している。再生可能エネルギーの主力電源化を進めるとしているにも関わらず、野心的な中長期目標を定めず、エネルギー政策において本質的に重要な省エネルギーやエネルギー効率化を軽視している。東電福島第一原発事故後に制定された原子力発電所の新規制基準や原子力規制行政には多くの欠陥が指摘されており、原子力損害賠償制度の不備、運転開始後 40 年を超えた老朽化原発の運転延長問題、放射性廃棄物の処理・処分の問題などの点でも、原発は困難に直面しており、経済的合理性も失われている。原発の持つこれらの根本的な問題点を直視すれば、原発ゼロの実現が必然となることは明白である。日本政府は、総発電量に占める原発の割合を 2030 年に 20%~22%にするとしているが、そのようなことは現実には不可能だと考えるのが合理的である。日本における原発の年間発電量は2014 年度にゼロとなり、2017 年度実績では総発電量の3%程度である(太陽光発電は約6%、再生可能エネルギー全体は16%)。福島原発事故前に54基あった原子炉の内、現在までに再稼働したのは9基に留まる。多くの世論調査が行われているが、事故後一貫して、国民の3分の2が原発再稼働に反対しており、再稼働や老朽原発の運転期間延長等で原発を維持することに、実現性も国民的支持もない。

2.新規制基準に基づく審査では原発の安全性が確保されない。
 新規制基準には多くの欠落項目や問題点があり、この新規制基準に基づく審査では原発の安全性は確保されない。福島原発事故前に適用されていた原子炉の立地に関する指針が撤回されるなど、後退すらした面もある。今回の長期戦略では、原発依存度を可能な限り低減するとする一方、安全を再優先して「世界で最も厳しい水準の規制基準」に適合するとして原子力規制委員会が認めた原発については、再稼働させる方針を前提にしている。しかし、こうした問題点のある新規制基準に基づく適合性審査は、原発の安全性の確保の観点からすれば不十分であり、地震・津波・火山などの自然災害への対策や原子力防災を含めた原子力規制行政の問題点も、解消されていない。福島原発事故後、原発の運転期間は原則して40年間と定められたにも関わらず、それを超えた20 年間以内の運転延長がなし崩し的に認められ始めているが、老朽化した多くの原発には安全上の深刻な問題がある。さらに、原発のテロ対策も明らかに不十分である。原子力防災に対する政府や自治体の危機管理対処能力もきわめて貧弱である。

3.原子力発電の真の発電コストは高く、隠された様々なコストとリスクがある。
 原子力発電は、電源として決して低廉でなく、電力の安定供給に資することはできない。福島第一原発事故の損害賠償や除染・事故廃棄物の中間貯蔵施設建設等のため、すでに 10 兆円を超える国費が東京電力支援のために使われている。また、事故収束や行政の事故対応にも多額の税金が投じられている。これらを合計すれば、福島原発事故による費用は現時点で 20 兆円を超える。このような現実を政府は改めて認識すべきであり、原発に関する経済性評価を一からやりなおすべきである。日本政府は、実際には経済性がない原発を電力自由化の中で延命させようとしている。このことは、原発が国家の支え無しに自立できない、コストとリスクの高い電源であることを示している。

4.意思決定プロセスに、市民からの意見を聴取し、反映する努力を行っていない。
 このように政府内で、非現実的で非合理的な「エネルギーミックス」(電源構成)を前提にした議論が行われているのは、エネルギー政策形成において民主的な意思決定プロセスが欠けているからである。この長期戦略の策定の過程においても、政府による非公開の「パリ協定長期成長戦略懇談会」での議論が行われたのみで、市民が参加する民主的な意思決定プロセスはまったく行われていない。募集期間が1か月にも満たないパブコメ(意見募集)が行われたが、それらの意見はほとんど反映されていない。国民生活にも深く関わる気候変動対策に関する政策の策定でも、政策決定プロセスのあり方から見直す必要がある。

 原子力市民委員会は、福島原発事故を受けて、原発ゼロ社会を実現するための調査分析、政策提言および公論形成を行う「市民シンクタンク」として2013年に発足した。2014 年の「エネルギー基本計画」や 2015 年の「エネルギーミックス」の策定に際し、国民的合意を得ながら原発ゼロ社会の実現を目指すよう提言してきた。また、2014 年 4 月には『脱原子力政策大綱 2014』*2を、2017 年 12 月には『脱原子力政策大綱 2017』*3を公表し、福島原発事故の被害の全貌や後始末をめぐる問題、放射性廃棄物の処理・処分や原発再稼働を容認できない技術的根拠を指摘した上で、原発ゼロ社会を実現するための行程を発表してきた。さらに新規制基準の様々な問題点について特別レポート5『原発の安全基準はどうあるべきか』も発表している。

以上

*1 https://www.env.go.jp/press/106869.html
*2 『原発ゼロ社会への道 ― 市民がつくる脱原子力政策大綱』
  http://www.ccnejapan.com/?p=3000(2014 年4 月)
*3 『原発ゼロ社会への道 2017 - 脱原子力政策の実現のために』
  http://www.ccnejapan.com/?p=8000(2017年12月)

 
 

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