原子力市民委員会 「声明: 原子力事業者の責任を明確にし、被災者に対して適切な賠償を行うために原子力損害賠償法の抜本的見直しを求める」を発表しました

2018年11月26日
原子力市民委員会
「声明: 原子力事業者の責任を明確にし、被災者に対して適切な
 賠償を行うために原子力損害賠償法の抜本的見直しを求める」
を発表しました

原子力市民委員会

 
  原子力市民委員会「声明: 原子力事業者の責任を明確にし、被災者に
   対して適切な賠償を行うために原子力損害賠償法の抜本的見直しを求める」pdficon_s

 現在、国会において、原子力損害賠償法の改正案が審議されています。11月22日には、衆議院本会議にて賛成多数で可決されました。
 しかしながら、その内容は、福島原発事故の被害を踏まえたものとなっておらず、原子力損害賠償制度を抜本的に改正するものではありません。損害賠償は、万一の事故が起きた際に、被害者の救済を十分に進めるための基本的枠組みです。抜本的改正を行わないまま原子力発電所の再稼働を進めようとする政府の姿勢は、厳しく批判されなければなりません。
 つきましては、本日11月26日、原子力市民委員会は「声明: 原子力事業者の責任を明確にし、被災者に対して適切な賠償を行うために原子力損害賠償法の抜本的見直しを求める」を発表しました。
 なお、この問題につきましては、下記の通り、院内集会が開催されます。原子力市民委員会の今回の声明についても内容の解説がされますので、あわせてお越しいただければ幸いです。

「原子力損害賠償法の抜本改正を求める院内集会」
http://www.foejapan.org/energy/evt/181129.html

日 時:2018年11月29日(木)16:30~18:30(開場16:00)
会 場:衆議院第一議員会館地下1階第2会議室(定員: 66 名)
発言(予定):
    大島堅一(龍谷大学政策学部教授、原子力市民委員会座長)
    竹村英明(eシフト、市民電力連絡会会長)
    海渡雄一(弁護士)
    松久保肇(原子力資料情報室事務局長)
    国会議員  ほか
資料代:500円
主 催:e シフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)


2018年11月26日

声明: 原子力事業者の責任を明確にし、被災者に対して適切な
賠償を行うために原子力損害賠償法の抜本的見直しを求める

原子力市民委員会
座長:大島堅一 座長代理:満田夏花
委員:荒木田岳、大沼淳一、海渡雄一、金森絵里、
   後藤政志、島薗 進、清水奈名子、筒井哲郎、
   伴 英幸、松原弘直、除本理史

 東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、福島原発事故)は、東京電力・1F問題委員会資料によれば、少なくとも21.5兆円の費用を要する未曾有の規模となった。1961年に制定された「原子力損害の賠償に関する法律」(以下、原賠法)の枠組みが、福島原発事故においてほとんど効果をもたなかったことは明白である。
 当座の弥縫策としてつくられた原子力損害賠償支援機構(以下、機構)を中心とする仕組みは、事故を発生させた東京電力や関係者(株主、金融機関等)の責任を曖昧にし、事実上、大きく軽減した。2018年3月に公表された会計検査院報告書によれば、機構を通じて交付された資金のうち、汚染者・加害者である東京電力が負担する部分は最大45%に過ぎない。これ以外は電気料金や税金を通じて実質的に国民負担となる。
 加えて、機構を中心とする損害賠償の仕組みには、国民に対する情報開示の点からも大きな問題がある。機構は、東京電力と密に情報交換・意見交換を行い、特別事業計画の策定や負担金の額等の重要な意思決定を行っている。にもかかわらず、機構は、公式非公式問わず、意思決定過程に関する情報をほとんど開示していない。
 私たち原子力市民委員会は、現行の原子力損害賠償制度が東京電力と国の責任を曖昧にし、問題を生じさせていることから、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法を廃止し、原子力賠償制度を再構築する案を2014年に提示している。国会においても現行の損害賠償制度の欠陥は認識され、原子力損害賠償支援機構法(現・原子力損害賠償・廃炉等支援機構法)附則6条1項で、政府に対し、原賠法の抜本的改正を求めている。
 原子力委員会での検討を経て、第197回臨時国会において提出するために、原賠法改正案が2018年11月2日に閣議決定され、11月22日には衆議院本会議で賛成多数で可決された。しかしながら、その内容は、福島原発事故の被害を踏まえたものとなっておらず、原子力損害賠償制度を抜本的に改正するものではない。損害賠償は、万一の事故が起きた際に、被害者の救済を十分に進めるための基本的枠組みである。抜本的改正を行わないまま原子力発電所の再稼働を進めようとする政府の姿勢は、厳しく批判されなければならない。

1.無過失責任、無限責任の維持を支持する
 いったん過酷事故が起きれば、その被害が甚大なものになることは福島原発事故から明らかである。被害者保護の観点からすれば、事故を発生させた原子力事業者の無過失責任と損害賠償の無限責任は当然である。
 原賠法改正案の策定にあたり、原子力委員会に原子力損害賠償制度専門部会が設置され、原子力損害賠償制度の再検討が行われた。その際、同部会委員の日本経済団体連合会・加藤泰彦氏等、一部の委員は有限責任化を主張した。また、オブザーバーである電気事業連合会の小野田聡氏は、「事業者責任を超える賠償については国が責任を負う」、つまりこの部分の「支払は国にしていただきたい」と述べた。同様の主張は、日本原子力発電や中国電力が、原子力発電所の再稼働を進めるにあたって行っている住民に対する説明にもみられる。これらの原子力事業者は、万一事故が起こったときは事業者だけでなく国も損害賠償支払いを行うかのような説明を行っている
 これは、原子力から利益を得ている産業が事故リスクを負わず、多かれ少なかれ国民に押しつけようとする身勝手な主張である。こうした主張は、原子力産業が原子力のリスクとコストを支払う能力をもたないこと、原子力発電に経済性がないことを表明するものである。自らが負担できないものを国民に押し付けようとする主張は理不尽極まりないもので、国民にも、原子力発電所周辺に住む住民にも受け入れがたい。原子力産業の無責任な要求を退け、改正案が無過失責任、無限責任を維持するとした点は支持する。

2.損害賠償措置額を12兆円に増額せよ
 他方で、政府案は、原子力損害賠償制度の抜本的変更を行なわず、現状維持に近い内容となっている。これは、福島原発事故の経験を踏まえていないものである。政府は責任を放棄しており、この点は許されない。
 問題点は、原子力事業者に対する義務が過小であることにはっきりとあらわれている。現行の原賠法第6条は、「原子力事業者は、原子力損害を賠償するための措置(以下「損害賠償措置」という。)を講じていなければ、原子炉の運転等をしてはならない」と定めている。この賠償措置額は、同法第7条において1200億円とされている。
 福島原発事故では、被害者への賠償費用は7.9兆円となるとみられており、除染費用は4.2兆円となっている。これらを合わせた賠償に要する費用は総額12兆円を超える。政府案に記された賠償措置額は、実際の賠償額の100分の1にすぎない。このことからすれば、1200億円は「損害賠償措置」額として全く不十分である。
 原子力市民委員会は原子力発電所の運転のための賠償制度を提案するものではないが、少なくとも、賠償措置額を福島原発事故に対応しうる額、すなわち12兆円に増やすべきである。もちろん賠償措置を講じることは原子力発電所を運転する最低限の条件にすぎない。原子力事故によって生じた損害は、加害者が全額負担する枠組みを新たに構築する必要がある。

3.原賠法の目的を被害者保護に限定すべきである
 原賠法第1条において、同法の目的は「・・被害者の保護を図り、及び原子力事業の健全な発達に資すること」とされている。しかしながら、福島原発事故の現実や他のエネルギー源の発達に鑑みれば、原子力事業を特別に保護する必要はない。「原子力事業の健全な発達に資すること」を削除し、同法の目的を「被害者の保護」に限定し、そのために「原子力事業の賠償責任を果たさせる」とすべきである。
 原賠法が制定された1961年は、原子力に対する根拠なき期待があったことは事実である。しかしながら、原子力開発を50年以上続けてきた今日、原子力に特別な位置づけを持たせ、これから育成しなければならない特別な産業として保護政策をとりつづけることの合理性は失われている。原子力発電は、福島原発事故にみられるような深刻な事故が起こりうるうえに、超長期にわたって放射性廃棄物の管理・処分を行わなければならないという特性がある。それゆえ、各種の世論調査にみられるように、国民の過半数は、即時または将来的に、原子力発電をやめるべきであると考えている。
 「原子力事業の健全な発達に資すること」を目的にしたことは重大な誤りであった。これによって、原子力産業を過保護な状態においた結果、原子力産業は、汚染者負担原則も製造物責任もない不健全な産業になっている。その結果、原子力事業者は、自らの賠償資力を超える被害を及ぼす事故を経営リスクとして認識せず、原子力発電を継続しようとしている。
 これは、福島原発事故を引き起こす根本原因になったとみるべきである。エネルギー基本法ならびにエネルギー基本計画の趣旨からしても、主力電源となりうるエネルギーは原子力以外に存在しており、原子力のみ特別扱いをする必要はない。原賠法の目的の変更は必要不可欠である。

4.原子力事業者以外への求償制限をなくすべきである
 現行の原賠法は、原子力事業者への賠償責任の集中が原則とされており、それ以外への損害賠償の求償には制限がある。これはもともと、アメリカが日本に原子炉を輸出するにあたり、アメリカ国内の原子力産業を保護するために、アメリカが日本に要求してできた規定であった。この規定が残っているために、今日では、原子炉メーカーをはじめとする原子力産業が原子力損害賠償の責任を免じられている。
 このことが、原子炉メーカーやゼネコンの事故責任の究明が進まない原因の一つとなっているとみるべきである。このような損害賠償が免じられる規定は、原子力事業の他にない。このような規定を維持する合理的理由はない。原子力事業者以外への求償制限は撤廃すべきである。

5.被害者保護の義務を国に課すべきである
 原子力事故は、その他の産業公害に比べ、桁違いに大きな損害と損失をもたらす。福島原発事故後、原賠法の不備を補うべく、原子力損害賠償支援機構法(後に、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法)が策定され、国民負担を基礎に、被害者への賠償が行われている。
 被害者に対する現実の賠償は、原子力損害賠償紛争審査会が策定する指針にそってはいるものの、東京電力が策定する賠償基準にもとづいて行われている。そのため、損害賠償は、加害者である東京電力の意思が反映されやすくなっている。実際の損害賠償は、被害の実態にそぐわないものになっており、自然的・社会的基盤が失われる「ふるさと喪失」損害や、放射性物質による被ばくや汚染などの被害が含まれていないなど、極めて不十分である。損害賠償を巡って被害者と加害者・東京電力との間で紛争が頻繁におきており、東京電力は、原子力紛争解決センター(ADR)で提示される和解案を再三にわたって拒否している。その結果、損害賠償にかかわる訴訟が数多く提起されるにいたっている。
 加害者である東京電力が不誠実な態度をとり続け、適切に賠償しないこと、多くの被害者が自ら司法に訴えなければならない状態に置かれていることを政府・国会は深刻に受け止めるべきである。国に対し、発災事業者を厳しく指導することを義務づけ、また、ADRの和解案の提示について、東京電力側は裁定案を尊重し、裁定案の内容が著しく不合理なものでない限り、これを受諾しなければならないものとし、被害者は裁定に拘束されないが、東京電力側が一定期間内に裁判を提起しない限り、裁定どおりの和解内容が成立したものと見なすことを盛り込んだ裁定機能を付与することを法に定めるなど、現行の制度の不備を改めるための具体的措置を含めるべきである。

以上

 

1 会計検査院「東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する会計検査
 の結果について」2018年3月23日
 http://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/30/h300323.html
2 原子力市民委員会『原発ゼロ社会への道 ――市民がつくる脱原子力政策大綱』2014年4月15日
 http://www.ccnejapan.com/?page_id=3000
3 「第7回原子力損害賠償制度専門部会」2016年3月2日
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo07/gijiroku.pdf
4 『東京新聞』2018年3月7日(茨城版)「事故発生時 原電「国が補償」 「東海第二」25回の住民説明会
 終わる」
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/list/201803/CK2018030702000162.html
 中国電力「島根原子力発電所3号機 新規制基準適合性申請に関する説明会」議事概要
 http://www.energia.co.jp/atom/setsumeikai/pdf/20180720_gaiyou.pdf
5 「参考資料」第6回東京電力改革・1F問題委員会、2016年12月9日
 http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/touden_1f/pdf/006_s01_00.pdf
6 第193回国会衆議院環境委員会会議録第2号、2017年2月21日
 http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/001719320170221002.htm

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