原子力市民委員会原子力規制部会「ALPS 処理水取扱いへの見解」を発表、関係大臣に送付しました

 

2019年10月3日
原子力市民委員会 原子力規制部会
「ALPS 処理水取扱いへの見解」を発表、
関係大臣に送付しました

 

 原子力市民委員会は、福島第一原発汚染水の取り扱いに関する「見解」を発表しました。この「見解」は、経済産業大臣、環境大臣、原子力規制委員長にそれぞれ送付し、これに関して、原子力市民委員会から大臣および各省庁担当部局への面談を申し入れました。

ご参考:
福島第一原発汚染水に関する「見解」の送付についてpdficon_s
川井康郎「トリチウム等汚染水取扱いの選択肢」(10月3日記者ブリーフィング資料)pdficon_s

「ALPS 処理水取り扱いへの見解」についての補足
(見解発表後、寄せられた意見、コメントなどを受け、「補足」を発表しました。)

 福島第一原発のALPS 処理水については、経済産業省の「多核種除去設備等処理水の取り扱いに関する小委員会」等において、管理・処分の検討が行われていますが、先般、原田義昭 前環境大臣は、「所管外」と認めた上で「海洋放出しか方法がない」と発言しました。また、更田原子力規制委員長は、従来から海洋放出するべきと発言しています。

 私たち、原子力市民委員会は、原発ゼロ社会の構築のための具体的かつ現実的な政策提言と、そのための「公論形成」の場をつくることを目指して活動しています。

 ALPS 処理水を含む福島第一原発の後始末は、私たちが重点的に取り組んでいる課題の一つであり、これまでも、ALPS 処理水は海洋放出するべきではなく、大型タンクによる長期保管を検討すべきであると提言してきました。

 この間、8月9日および9月27日に開催された「小委員会」で、東京電力が大型タンクによる長期保管の問題点等を説明しましたが、私たちは、いずれも解決可能なものであり、大型タンクによる長期保管が有効な選択肢であることは変わらないと考えています。

 また、モルタル固化による処分は、「トリチウム水タスクフォース」で検討された「地下埋設」に類似の方法ですが、米国サバンナリバー核施設での実施例もあり、コスト削減などを含め、検討する意義は十分にあると私たちは考えています。
 
 
 


1. はじめに
 2019年8月9日(第13回)、9月27日(第14回)と立て続けに「多核種除去設備等処理水の取り扱いに関する小委員会」(以下「小委員会」と略す)が開催された(*1)。そこでは東京電力(以下、東電)より多核種除去設備(以下「ALPS」と略す)処理水(ストロンチウム処理水を含む)の総貯留量が約115万m3に達し(2019年7月18日時点)、敷地制限により最大可能貯留量の137万m3には2022年夏頃に達するであろうとの報告がなされた。(下図参照)
 我々原子力市民委員会は、汚染水問題に関してこれまで多くの報告書や声明を発表してきた(*2)。直近では2019年4月14日付けの「ALPS 処理水をめぐる現状とその取り扱いに向けた選択肢」というポジションペーパーの中でトリチウムに汚染されたALPS 処理水の当面ならびに長期的視野にたった対策の選択肢を提示した。本「見解」においてもその基本的立場を踏襲しつつ、小委員会で提示された新たな情報や議論を踏まえて、現時点での見解をまとめ、提言を行なうものである。

 

2. 小委員会の開催と主要論点
 8月9日の第13回小委員会では事務局(経産省所属)ならびに東電より上述の汚染水貯水量の現状に加えて、概ね以下の報告があった。

  • 汚染水の発生量は現在、一日当たり約170m3に減少している。
  • 2018年8月の公聴会で多くの意見が出された大型タンクでの長期保管案については、敷地の確保に難があり最大137万m3の貯水が限界。

出席委員からは次のような意見が相次ぎ、議論が交わされた。

  • タンク保管のための敷地は北側の土捨場を利用できるのではないか。これに対して、東電(松本廃炉推進室長)は「今後生み出される放射性の廃棄物や廃土は東電敷地内に保管したいので、この敷地はその目的のために確保しておきたい」と回答。
  • 敷地を周辺の中間貯蔵施設(環境省が旧地権者より買い上げたもの)に拡大できるのではないか?これに対して、東電は「無理ではないだろう」と回答。
  • そもそもタンクに ALPS 処理水を貯め始めたのは海洋放出により(風評)被害を避けるためである。それに影響を与えないことがはっきりするまで放出はすべきではない。

 このように、意見の大勢はALPS処理水の海洋放出を容認するものではなく、当面は保管を継続する方向であった。但し、トリチウムの減衰や廃炉作業の進捗を睨んだ上で貯留期限への基準を定めるべきとの意見も出された。
 続いて9月27日の第14回小委員会では事務局ならびに東電より以下の追加報告があった。

  • 北側の土捨場等の計画敷地は、今後の廃炉事業に伴う必要施設(デブリの一時保管や資機材保管、各種の訓練・研究施設等)の用地として必要。
  • 周囲の中間貯蔵施設を目的外の用途で使用することは、地元との土地提供条件と異なるために難しい。また、福島第一の敷地内で廃炉作業を行なうことが基本方針である。

 委員会の結論としては、敷地の有効利用を徹底し、原発敷地内に可能な限りタンクを増設する方向で引き続き議論を進めることとなった。

 

3. 長期保管をめぐる諸議論
(1) 長期保管のメリット
 汚染水を長期保管することの最大の利点は放射能の減衰にある。トリチウムの半減期は12.3年であり、例えば、50年後には1/17、100年後には1/280、120年後には約1/1,000となる(右図)。現在のトリチウム濃度を約100万Bq/L(2018年8月の公聴会資料より)とすれば、100年後には約3,600Bq/Lにまで減衰する。また、トリチウムタスクフォース報告書(2016年6月)によれば、原水中のトリチウム濃度は50万~420万Bq/L とされており、一部報道では100万~500万Bq/Lとあった。450万Bq/Lとした場合、100年後には16,000Bq/L まで減衰する。

 

(2) 長期保管の課題~いつまで保管するのか?
 小委員会でも提起されたが、この最大の難課題については真剣な議論が必要となるであろう。上述したように、長期保管中にトリチウムは減衰する。到達目標濃度として考えられる候補としては以下が挙げられる。
  ① 我が国の排出基準濃度:60,000Bq/L
  ② 福島第一におけるサブドレン、地下水バイパス排出の運用目標濃度:1,500Bq/L
 これらの濃度に達するまでの減衰期間ならびにその時の保有トリチウム総量は以下のように算出される(原水は100万Bq/L、450万Bq/L の両ケース)。

原水中のトリチウム(T) 濃度 単位 100万Bq/L 450万Bq/L
T総量 Bq 1.15 x 1015 5.2 x 1015
60,000 Bq/L まで減衰した場合 必要期間 50 77
T総量 Bq 6.9 x 1013
1,500 Bq/L までの減衰した場合 必要期間 115 142
T総量 Bq 1.7 x 1012
 ここで、1,500Bq/Lまで減衰した場合の総量約1.7兆Bqというのは、仮に1年間で全量放出した場合、福島第一原発事故以前の年間放出量実績(1~2.6兆Bq)の水準に相当する。
 一方、小委員会が提示している処分方法のひとつである海洋放出案は、減衰を待つのではなく、希釈によって排出基準濃度6万Bq/Lを達成しようというものである。現在保管中の約1,150兆Bqあるいは5,200兆Bqものトリチウム総量(放出期間中の減衰効果は無視)を放出することは到底許されるものではない。
 なお、保管限度選択の最終的な決定にあたっては、漁業者や市民を含めた全ての関係者による議論と合意が必要であることは改めて言うまでもないが、海洋を汚染し、漁業に実害と風評被害を与え、国際信用を貶めるトリチウム放出は、長期保管により十分に放射能を減衰させた後においても避けるべきということであれば、後述する「モルタル固化による永久処分」は、最有力の選択肢の一つである。すでに米国の核施設にて運用実績もある。放射能は同様に減衰カーブを描くため、大型タンクによる汚染水の長期貯留段階を経ずに直接、固化処分を実施しても構わない。いずれにせよ、最終処分の形を見据えた上での議論が必要である。

 

(3) 敷地はあるのか?
 汚染水の長期保管あるいはモルタル固化処分のための敷地は、小委員会での議論にあったように、東電敷地内北側の土捨予定地、あるいは東電周囲の廃棄物中間貯蔵施設敷地(環境省所管)への拡幅が考えられる。東電は第14回小委員会において、敷地北側の土地は今後の廃炉事業に必要な、取り出したデブリの一時保管施設、機器資材保管施設、デブリ取出し訓練施設、モックアップ施設、関連研究施設等々のために必要な敷地であると述べた。しかしながら現実には、建屋内と格納容器周辺の高放射線環境により、いまだにデブリの位置や形状さえ、その全貌の把握は出来ておらず、デブリ取出しへのロードマップは暗礁に乗り上げたまま「絵に描いた餅」状態になっている。このような現実を見極めた上で、技術リスク、巨額コスト、被ばく労働を避けるためにも「デブリは取り出さない」という選択肢を真剣に検討すべきである。(詳しくは、2017年11月、原子力市民委員会特別レポート1「100 年以上隔離保管後の後始末」参照(*3))
 さらに、もし研究等施設が必要であるとしても、それは福島第一サイトから離れた場所でも全く構わない。例えば、原子力研究開発機構 JAEA が運営しているモックアップ試験施設(福島研究基盤創生センター)は楢葉町に建設・運用されている。
優先されるべきは、目の前の対応が迫られている ALPS 汚染水貯留のための敷地確保である。
 
 右図は福島第一原子力発電所を取り囲む除染廃棄物中間貯蔵施設の配置図である。全体敷地は約1,600ヘクタールにおよび、汚染土壌、がれき、焼却灰などあらゆる種類の放射能汚染廃棄物の貯蔵が計画されている。第14回小委員会にて事務局から説明があったように、福島県との間で30年間の供用期間が定められており、かつ目的外の用途での使用には旧地権者の同意、地元自治体の承認等が必要であろうが、全関係者による前向きな検討と合意形成が望まれる。

 

(4) 大型タンクの仕様
 原子力市民委員会がこれまで主張してきた大容量タンク案について、東電は第13回小委員会資料の中で幾つかの問題点を指摘している。
指摘1:一基当たりの設置に3年、検査等に1年を要する
⇒実に間延びしたスケジュールといえる。製油所などの通常のプラント建設における大規模貯槽タンクの標準工程は組立てと検査に約1年、設計や調達、許認可と同時進行が可能な地盤改良や基礎工事を含めても1.5~2.0年あれば数基を建設する期間として十分と考える。
指摘2:敷地利用効率は現在採用している標準タンク(1,350m3級)と大差ない
⇒大型タンクの容積効率は約2倍と推算され、効率的な敷地計画に大きく貢献する。勿論、長期保管を行なうことが正式に決定されれば、タンクの容量問題は二の次であり、最適サイズは自ずと決まっていくであろう。
指摘3:浮屋根式構造となるため雨水混入の可能性あり
⇒通常、浮屋根式は原油等の揮発性液体を貯留するためのものであり、今回のような場合はドーム型を採用すれば、雨水混入の心配はない。
指摘4:破損した場合、1基当たりの漏えい量が膨大
⇒原油備蓄等で培われてきた大型タンク技術はその堅牢性においても十分な信頼をおけるであろう。全量漏えいを前提とした防液堤の設置はいうまでもない。

 

4.モルタル固化による永久処分を有力な選択肢として再検討するべきである
 モルタル固化による永久処分の方法は米国サバンナリバー核施設において実績がある。2018年10月には最大規模の12万m3の半地下コンクリート製タンクが完成し、セシウム等を除去した後の低濃度汚染水をモルタル化してその中に流し込み、固化している。
 
 利点は、大型鋼製タンクと同様、既存技術の適用であることと固化により海洋等への流出のリスクがなくなることである。福島第一原発においても、2022年夏までに最初のコンクリートタンクを完成させれば、東電による現状タンク計画でも支障がないことになる。
 モルタルに含まれるトリチウム水は同様に減衰していく。固形物となるので「原子力施設からの低レベル廃棄物」に準じたトレンチあるいはピット処分の取扱いとなるであろう。
 弱点は、モルタル化にあたって水・セメント・砂の混合比による容積効率の低さ(水は容積比で約1/4)である。また、その場所が永久処分地になるということで、地元の合意が必要である。
 ちなみに、このモルタル固形化案はトリチウム水タスクフォース提示の第5案「地下埋設」に類似している。ただ、タスクフォース案では地下水位以下にコンクリートピットを設置することでコストも大きくなり、その後の監視体制にも懸念が残る。有力な選択肢のひとつとして、サバンナリバー方式による詳細検討をすべきである。
 なお、これまで議論をしてきたALPS汚染水の最終処分のための選択肢として、海洋放出案、長期保管案、モルタル固化案の3つについて、添付の比較表にまとめてみた。海洋放出の可能性を絶つことになるモルタル固化案について積極的に検討を進めるべきと考える。

 

5.長期的な視野
 東電資料では大型タンクの建設期間について言及しているが、こうして検討に時間を費やし、決断を先延ばしにしていることこそが時間の無駄遣いである。2018 年12月に開催された先の小委員会から何の結論も得ないまますでに半年以上を過ぎているという愚を繰り返してはならない。スピード感のあまりの欠如が事態をいっそう悪化させているように思われる。
 そもそも、小委員会の議論は、中長期ロードマップによる30~40年後の「使用済み燃料等の取り出し完了⇒汚染水問題の根本的解決」というシナリオを前提にしているが、このロードマップがすでに「絵に描いた餅」であることには言を俟たない。事故後8年を経た現在でも、格納容器内は毎時数千ミリシーベルトの高放射線環境下にあり、各号機内デブリの正確な位置や形状は掴めず、その取り出し方法の策定は当面見込めない。
 我々はこれまでの報告書の中で、多大な費用と被ばく作業を伴うデブリ取出し作業を無理に行うのではなく、外構シールドあるいは石棺の設置により100年を超える長期隔離保管案を提案してきた。その長期保管中にデブリの発熱量低下を踏まえた空冷化が図られるならば、冷却水の接触という放射能拡散源は絶たれ、更に建屋地下ピットを埋めることで流入地下水が遮断され、汚染水の発生は止まる。
 勿論、デブリの空冷化は容易な作業ではない。デブリの位置、形状の把握、冷却空気通路の形成、放射線環境下での設置工事といった困難な諸作業が予想される。幸い、デブリの発熱量は時間を追って減少しており、東電自身の推算によっても、現在は各号機とも70~80kWの発熱量であることが推算されている(*4)。2019年5月に実施された2号機におけるデブリ冷却水一時停止実験の結果などを踏まえて、空冷化に向けた最大限かつ「本気」の努力を望みたい。

 

6.さいごに
 汚染水問題はまったく解決していないどころか、状況は悪化の一途をたどっている。しかしながら、このまま敷地不足を理由にトリチウムならびに他核種を含んだ汚染水を海洋に放出するという安易な道だけは選んではならない。
 原子力市民委員会は、原子力事故を引き起こした東電と原発政策を推進してきた国の責任において、本見解に基づいて更なる詳細検討を行ない、漁業関係者をはじめとする地域関係者、自治体、市民等による協議を通じて、大型タンクの建設あるいはモルタル固化のための敷地を確保し、ALPS 処理水の処分による環境および社会的な影響を最小限にとどめるべきであり、そのことは、十分に可能だと考える。

 


(*3) 2017年11月:特別レポート 1「100 年以上隔離保管後の後始末」の URL
http://www.ccnejapan.com/?p=7900
(*4) 2013 年 10 月 24 日国会エネ調査会(準備会)向け資料より

 
 
 

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