「声明: 環境省は放射性物質の無秩序な拡散につながる除去土壌の再生利用方針を撤回し、事故由来放射性廃棄物・除去土壌の体系的な最終処分のあり方を再構築せよ」を発表しました

2020年2月7日

「声明: 環境省は放射性物質の無秩序な拡散につながる除去土壌の
再生利用方針を撤回し、事故由来放射性廃棄物・除去土壌の
体系的な最終処分のあり方を再構築せよ」

「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令(案)」及び「環境大臣が定める者の告示(案)」に対する意見

原子力市民委員会

声明: 環境省は放射性物質の無秩序な拡散につながる除去土壌の再生利用方針を撤回し、
 事故由来放射性廃棄物・除去土壌の体系的な最終処分のあり方を再構築せよ」pdficon_s

はじめに
 原子力市民委員会は、2019年5月13日に声明「環境省は除染土の再生利用と安易な処分をやめ、国民の熟議と合意にもとづいた最終処分のあり方を提示せよ」を発表した※1。その主旨は以下の4点である。

1.除染土の「再生利用」を実施してはならない。安易な「埋立処分」も進めてはならない。
2.除染土の再生利用と埋立処分の「実証事業」は、そのまま事実上の最終処分となりかねない。事業の安全性は恣意的な手法で「検証」されているにすぎない。住民の合意はおろか理解を得ないままの強引な「実証事業」の推進、ならびに再生利用にともなう手引書の作成、埋立処分に関する省令の策定作業は、即刻中止すべきである。
3.国は、福島県内の除染土については中間貯蔵施設に持ち込み、30年後に県外の最終処分施設に移設するとしている。また、福島県外の除染土については各県内で処分するとしている。福島県内か県外かによって扱いを区分する方針そのものが除染土についての市民の理解を混乱させ、さらには、福島県内の除染土の「再生利用」と、県外の除染土の「埋立処分」という2つの問題を生じさせている。政府は、いったんこれらの方針を取り下げ、国民の熟議と合意に基づき、福島原発事故由来の放射性廃棄物・除染土の体系的な最終処分のあり方を再構築すべきである。
4.従来の放射性物質管理のあり方と、除染土の「再生利用」や今般の「実証事業」に見られる簡易な埋立てのあり方とには、二重基準(ダブルスタンダード)が存在している。これは、放射性物質管理行政を混乱させ、将来、さらに大きな問題を引き起こす可能性がある。原子力行政を国策として推進してきた日本政府は、事故発生の責任を認め、除染土を含む放射性物質の管理行政をより厳重なものとしなければならない。

 今般、環境省が意見募集(パブリックコメント)を行っている「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令(案)」及び「環境大臣が定める者の告示(案)」に対する原子力市民委員会の基本的考え方は、上記声明を発出した時点と、現在も変わりはない。本声明は、この基本的考え方をふまえながら、省令案および告示案に対して改めて意見表明するものである。
 なお、除染によって生じる土壌を指す用語として2019年5月の声明では「除染土」を用いたが、用語法の混乱を招かないよう、本声明では法律に定められた用語としての「除去土壌」を用いる。本来は放射性物質によって汚染された土壌であることに鑑み、除染土、汚染土ないし除去放射性土壌のように呼ぶべきものである。また、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」は「特措法」と省略して記載する。

意見1. この意見募集は行政手続法の趣旨から逸脱している
 行政手続法第39条は、「命令等を定めようとする場合には、当該命令等の案及びこれに関連する資料をあらかじめ公示」しなければならないとしている(第1項)。また、「公示する命令等の案は、具体的かつ明確な内容のもの」でなければならないともしている(第2項)。
 しかし、この意見募集で公示された省令案は、改正される施行規則条文の概要が示されているのみであり、現在の施行規則と照らしてどの部分が改正されるのか(例:新旧対照表)や関連する資料が何ら示されていない。とりわけ、関連する資料として、環境省が開催した「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」(第11回、2019年12月19日)において検討された「福島県内における除染等の措置に伴い生じた土壌の再生利用の手引き(案)」※2(以下、「手引き(案)」)は、この意見募集の対象となる施行規則改正がもたらす内実が落とし込まれた重要な資料であると思われるが、公示されていないどころか、環境省が公示した案には言及すらない。
 すでに具体的内容を定めておきながら、それを国民に示さず、施行規則改正に限った意見募集を行うことは、行政手続法の趣旨から逸脱している。環境省が作成した「手引き(案)」は法的根拠を持つ規定ではないので意見募集の対象とはならないとすれば、そのような曖昧かつ無責任な「手引き」なるものによって除去土壌の再生利用を行おうとしていること自体に問題がある。

意見2. 特措法には「再生利用」についての定めがない。特措法の拡大解釈に基づく「再生利用」は許されない
 今回の施行規則改正の根拠となる法令は特措法第41条第1項とされている。特措法第41条第1項は以下のように定められている。
「除去土壌の収集、運搬、保管又は処分を行う者は、環境省令で定める基準に従い、当該除去土壌の収集、運搬、保管又は処分を行わなければならない。」
 法の条文に「再生利用」という言葉は明記されていない。にもかかわらず、省令で除去土壌の再生利用の基準を定める根拠を、環境省の担当者は「処分」の一環と説明している※3。しかし、原発事故直後の2011年6月3日に原子力安全委員会が示した「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響を受けた廃棄物の処理処分等に関する安全確保の当面の考え方について」※4では、再利用と処理・輸送・保管、そして処分は明確に分けられている。また廃棄物処理法においても「処理」の概念の下、「再生」と「処分」は明確に分けられている。
 「処分の一環として再生利用が認められる」との環境省の説明は、他の法令と整合しない点で無理がある。仮に、特措法における「処分」の概念規定が特異的に広いのであれば、その特異性・異常性がもたらす弊害を直視し、先に是正しなければならない。いずれにせよ、行政機関が拡大解釈ないし恣意的な解釈をすることによってしか、除去土壌の再生利用に法的正当性が担保できないとすれば、その方針は撤回されるべきである。

意見3. この省令案で定める基準では実効的な管理はできない
 この省令案で新たに設けられる「除去土壌の再生利用の基準」には、除去土壌の再生利用に係る工事の施工主体、場所の管理主体、飛散・流出防止措置、生活環境の保全措置、再生資材化の義務、放射線量の定期的測定、位置図の作成・保存、被覆による遮蔽、形質変更の際の届け出などが定められているが、具体的な基準は何ら示されていない。たとえば、以下のような規定がない。
①どのような用途に除去土壌が再生利用されるのか
②どのような濃度の放射性物質を含む除去土壌が用いられるのか
③どのような対策と方法で住民の健康や生活環境が守られるのか
④各種措置の遂行にあたって実施主体はどのような責任をいつまで負うのか
⑤事業の実施主体と管理主体はどこまでの範疇なのか
⑥各種措置の監督責任は誰にあるのか
さらに⑦規則に違反した場合の是正や罰則に関する規定もなければ、⑧国民や地元自治体等への情報公開の規定もない。すなわち、この基準では実効的な管理はできないし、そもそも基準が守られる保証すらない。
 上述の「手引き(案)」には、それら具体的内容の一部が記載されているが、述べたようにこの「手引き(案)」には法的拘束力がなく、単なるガイドラインに過ぎないものである。
 なお、これまでも台風などによって仮置き場の除染廃棄物が袋ごと流されるなどの問題が後を絶たなかったが、昨今の大型台風では盛り土の崩壊に至る事例が各地で多発している。こうした流出のリスクが過小に評価されていないか、再検討が必要である。

意見4. 環境省は従来の放射性廃棄物の管理に関する規範を放棄しようとしている
 これまで述べてきたようなこの省令案の欠陥の根底として、放射性物質を取り扱うことの重大さを環境省が認識していないとの懸念を持たざるを得ない。現在、再生利用が想定されている除去土壌は、セシウムについて8000Bq/kg以下の放射能濃度を有するとされる。原子炉等規制法に基づく基準では、このレベルの放射能濃度を有する廃棄物は低レベル放射性廃棄物としてトレンチ(浅地中)処分される。処分の方法も事業ごとに、すべての過程が審査の対象となる。原子力規制庁の資料によれば、岩盤や地盤など天然バリアによる遮蔽機能・移行抑制機能が期待される場所でトレンチ処分された廃棄物は、50年程度の管理期間を必要とする※5。しかし今般の省令で進められる除去土壌の再生利用においては、「手引き(案)」によれば「公共事業等における盛土材等の構造基盤の部材」として使用することが想定され、施行規則には「除去土壌が飛散し、及び流出しないようにすること」としか記載がない。「手引き(案)」にも、管理期間の記載はない。
 この点は、環境省自身が設置した「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」の下に設けた「除去土壌等の再生利用に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキンググループ」において、5000Bq/kgの濃度をもつ除去土壌を再生利用すると、従来のクリアランスレベルである100Bq/kgに減衰するまでに170年かかるとの試算が提出され、一方で盛り土など土木構造物の耐用年数が70年とのデータも示されている※6。環境省はこうした問題点を把握しながら、実効的な管理体制を担保しない省令を設け、管理期間の記載すらない「手引き(案」)でそれを現実のものとしようとしている。

意見5. 「再生利用」と称する「処分」は福島県民ならびに国民への背信行為である
 環境省が公示した資料の「1.背景・趣旨」には、「県外最終処分に向けた再生利用の取組を安全かつ適正に進めるため、除去土壌の処分の基準としての必要な規定を設ける」※7とある。これは2012年に閣議決定された「福島復興再生基本方針」に明記された「中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」とした国の基本的な施策に基づくものと思われる。このことは結果として、福島県外で最終処分する除去土壌の量を減らすために、福島県内で「処分」の一環として「再生利用」を実施するという本末転倒の帰結を生もうとしている。それどころか、環境省の「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」(2019年3月19日)では、減容処理をさらに推進することによって、県内で生じた除去土壌のうち最大で99.8%が、再生利用が可能な「再生資材」となるという試算が示されている。
 除染の意義と効果については多様な評価がありうるとはいえ、除染は住民の被ばくを低減するという目的のために実施されたはずであるにもかかわらず、除染によって生じた除去土壌を「処分」の一環として「再生利用」することは、巨額の費用を投じた除染事業の目的そのものを失わせるものである。福島県内において再生利用を実施することは、汚染を被った地域の人々に、さらなる被ばくのリスクを与えることになり、本来の除染の目的に明らかに反している。これは、環境省設置法にうたわれた「地球環境保全、公害の防止、自然環境の保護及び整備その他の環境の保全」という任務に対する背信行為であり、環境省の存在意義すらゆるがすものである。
 なお、環境省は別途、福島県外の除去土壌についても「除去土壌の処分に関する検討チーム会合」を2017年9月以来、5回にわたって開催しているが、ここでも「除去土壌の埋立処分に関する環境省令」が検討されるとともに、法的拘束力のない「ガイドライン」が作成されようとしている※8。曖昧かつ無責任な「ガイドライン」なるものによって除去土壌の埋立処分を行う仕組みは、今般の改正と全く同じ構図である。このような進め方は許されない。

意見6. 政府は事故由来放射性廃棄物・除去土壌の体系的な最終処分のあり方を再構築すべき
 このまま除去土壌の再生利用や埋立処分を進めれば、福島原発事故由来の放射性物質は、本来あるべき集中管理とはほど遠く、無秩序に拡散することになりかねない。
 まずは現状と問題点を国民に周知し、透明性を確保したうえで、国の責任のもとに国民的議論を行わなければならない。政府は現在の方針に妥当性や現実性があるのかといった点を含めて一度立ち止まり、除去土壌の処理・処分について、ひいては事故由来放射性廃棄物の管理のあり方について、さまざまな立場の専門家や全国各地の市民の参加による熟議を重ねる必要がある。政府はそれを踏まえて最終処分に関する政策を再構築すべきである。

以上

 


※3. 2020年1月28日、阿部知子衆議院議員の呼びかけによるヒアリングの席上において。
※5. 原子力規制庁「第二種廃棄物埋設に係る規制制度の概要」(2015年1月26日)
※6. 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構「除去土壌等の再生利用に係る追加被ばく線量について」(除去土壌等の再生利用に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキンググループ、2016年1月27日)資料2-2
※7. 下線は筆者による。
※8. 環境省「除去土壌の埋立処分に関する環境省令及びガイドラインにおける記載事項(案)」(除去土壌の処分に関する検討チーム会合、2019年3月15日、資料2)

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