海洋放出の「科学的根拠」とはならない
海洋放出を中止し、代替案の実施を検討するべきである 」
を発表しました
■ 見解:IAEA 包括報告書はALPS 処理汚染水の海洋放出の「科学的根拠」とはならない 海洋放出を中止し、代替案の実施を検討するべきである
2023年7月18日
(更新版 2023年7月19日)
見解: IAEA 包括報告書はALPS 処理汚染水の 海洋放出の「科学的根拠」とはならない 海洋放出を中止し、代替案の実施を検討するべきである
原子力市民委員会 福島第一原発からのALPS(多核種除去設備)処理汚染水の海洋放出に関し、IAEAは「海洋放出やそのための活動は国際的な安全基準に整合的(consistent)である」とする報告書※1を発表した。これにより、政府・東京電力の計画が「お墨付き」を得た※2とされている。
1.事故炉からの処理汚染水である事実に関する認識と評価が不十分である 以 上
本件についての問い合わせ先:原子力市民委員会 事務局
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(高木仁三郎市民科学基金内)
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※1 IAEA Comprehensive report on the safety review of the ALPS-treated water at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station. July 2023 (以下「IAEA包括報告書」と略記)https://www.iaea.org/sites/default/files/iaea_comprehensive_alps_report.pdf
※3 廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」2021年4月13日https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/alps_policy.pdf
※7 通常炉からの排水が安全で問題がないというわけではない。周辺水域の海底土や底生生物に放射性物質が濃縮していることが知られており、また、トリチウム排出の多い原子力施設の周辺で白血病の発生率が多くなることが統計的に報告されている。Ian Fairlie(2020)The Hazards of Tritium https://www.ianfairlie.org/news/the-hazards-of-tritium/
※9 ICRP(2009)「ICRP Publication 103 国際放射線防護委員会の2007年勧告」日本アイソトープ協会 http://www.icrp.org/docs/P103_Japanese.pdf
※10 IAEA安全基準は、「安全原則」(Safety Fundamentals)、一般安全要件(GSRs: General Safety Requirements)、施設と活動に係る個別的安全要件(Specific Safety Requirements: SSRs)、さらにこれらの安全要件を具体的に履行していくための一般安全指針(General Safety Guides: GSG)及び個別安全指針(Specific Safety Guides: SSGs)からなる。
※11 正当化(justification)については、GSR Part3で「原則4:施設と活動の正当化として、放射線リスクを生じる施設と活動は、正味の便益をもたらすものでなければならない。」とされている。これに基づいて制定された「GSG-8公衆及び環境の放射線防護」の2.11では、「計画的被ばく状況において、正当化とは、ある実施方法が全体として有益であるかどうか、すなわち、その実施方法を導入又は継続することによって個人及び社会に期待される便益が、その実施方法から生じる害(放射線による不利益を含む)を上回るかどうかを判断するプロセスである。便益は個人と社会全体に適用され、環境への便益も含まれる。放射線の害は、害全体のごく一部にすぎないかもしれない。このように、正当化は放射線防護の範囲をはるかに超え、経済的、社会的、環境的要因も考慮する必要がある」と規定されている。緊急事態についても2.12で正当化が求められている。さらに、「GSG-9環境への放出」の4章では、正当化されない放出は許可すべきではないとしている。
IAEA(2014)GSR Part3 Radiation Protection and Safety of Radiation Sources: International Basic Safety Standards「放射線防護と放射線源の安全: 国際基本安全基準」(2022年3月改訂、原子力規制庁翻訳) https://www.nra.go.jp/data/000354300.pdf IAEA(2018)GSG-8 Radiation Protection of the Public and the Environment https://www-pub.iaea.org/MTCD/Publications/PDF/PUB1781_web.pdf IAEA(2018)GSG-9 Regulatory Control of Radioactive Discharges to the Environment https://www-pub.iaea.org/MTCD/Publications/PDF/PUB1818_web.pdf ※16 処理汚染水の検討プロセスで行われた公聴会、パブリック・コメント、新聞などでの世論調査でも反対が多数であった。例えばALPS小委員会での公聴会における発言者3会場合計44人のうち、海へ捨てることに合意したのは2名のみであった(うち1名は条件付き合意)。他は全て反対意見であった(https://cnic.jp/8163 )。多核種除去設備(ALPS)等処理水の取扱い「御意見を伺う場」(2020年4月6日、13日)でも、「この海洋放出による直接的な影響は、風評被害ではなく、実害であり、それはその処分が終了するまで続くもの(福島県旅館ホテル生活衛生同業組合)」「福島県の漁業者としてトリチウム処理水の海洋放出には反対するという立場を主張していきたいと思います。今後ともよろしくお願いしたいと思います。(福島県漁連・野﨑会長)」との発言があった。また、多核種除去設備等処理水の取扱いに関する書面での意見募集(2020年4月~7月)への4011件への回答の整理状況をみると、ほとんどが処理汚染水放出に反対であると推測される。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=620220008&Mode=1 ※19 https://www.nra.go.jp/disclosure/law_new/FAM/140000272.html の「III 第3編 2.1.2 放射性液体廃棄物等の管理」III-3-2-1-2-6ページ https://www.nra.go.jp/data/000410090.pdf
※22 タスクフォースは2016年6月時点での貯水量80万m3をベースに算定していた。現在は133万m3と大幅に増加している。面積規模も、ALPS処理水希釈放出設備及び関連施設の建設状況から判断すると、400m2を大きく超えるとみられる。なお、海洋放出によって汚染が拡散する面積規模は、原子力市民委員会の代替案に比べて遙かに大きい。汚染の拡散規模は原子力市民委員会の代替案(モルタル固化案)が最小である。
※25 「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning.html
※26 原子力市民委員会(2022)『原発ゼロ社会への道』http://www.ccnejapan.com/20220826_CCNE202305.pdf 第2章(とくに、2.3、2.4)参照。また、経産省の説明によれば、大型タンクによる長期保管は廃炉を30~40年で終えるという原則に反し、設置に要する面積も足りない、モルタル固化は場所確保の困難に加え蒸発防止対策や新たな規制基準が必要となるという理由で却下されたとのことである(2020年10月25日、資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室の奥田室長からの口頭説明)。これらの点については、原子力市民委員会の技術・規制部会でも検討を重ねており、公開討論や第三者評価を求めたい。
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【2023年7月19日:更新版についての補足】
更新版では、二点の変更をいたしました。
一点目は、特定の団体名の表記に誤りがありましたので、修正しました。謹んでお詫び申し上げます。
二点目は、編集段階で文章が一部欠落した箇所が判明したため、更新しました。具体的には以下となります(p4の最終行から)。
【更新前】「にもかかわらず、2021年4月の政府の方針決定に続き、2022年11月の「福島第一原子力発電所特定原子力施設に係る実施計画の変更認可申請(ALPS処理水の海洋放出時の運用等)」 では、原子力規制委員会もこの計画を承認した」
【更新後】「にもかかわらず、2022年11月の東京電力の「福島第一原子力発電所特定原子力施設に係る実施計画の変更認可申請(ALPS処理水の海洋放出時の運用等)」 では、この約束が「海洋への放出は、関係省庁の了解なくしては行わないものとする」と改変され、原子力規制委員会もこの申請を承認した」