「放射線防護の民主化フォーラム 2023-2030」開催の経緯と趣旨

 

11/3-4【福島市内】
「放射線防護の民主化フォーラム 2023-2030」
with 飛田晋秀写真展、減思力展、原子力災害考証館furusato
―福島の経験を共有し、放射線の影響からの‟身の守り方”を市民の視点で問い直すプログラム・お申込みはこちらから]

<開催の経緯と趣旨>

 

福島の経験をふまえたとはいえない勧告の改訂
2011年の福島第一原発事故後、日本政府はICRP(国際放射線防護委員会)の2007年基本勧告から、原発事故直後の緊急時被ばく状況における20ミリシーベルト基準を採用し、避難指示や解除、除染の線引きなどをおこなってきました。事故から12年半経った今も、公衆被ばく線量限度の年間1ミリシーベルトの20倍にあたるこの数値が変更されていないのは信じがたいことです。

ICRPは2020年にチェルノブイリや福島での原発事故の経験をふまえて改訂したとする勧告「大規模原子力事故における人と環境の放射線防護」(ICRP Publication146)を発行しました※1。その草案へのパブリックコメントでは、福島原発事故の被害者の経験が十分反映されておらず、上述のような日本政府の都合のよい基準の解釈や運用について記述していないこと、人選に偏りのある科学者と市民の共同専門知を推奨していることなど、日本からも含め300通もの批判的な意見が寄せられましたが、大きく変更されることなく刊行されてしまいました※0

ICRP2023東京総会への市民参加を拒むICRP
放射線の影響から身を守る「放射線防護」の基準のもととなるICRPの基本勧告が2030年頃に向けて改訂される予定で、今年11月6日-9日に東京で開催されるICRPの総会「ICRP2023東京」でもその検討がおこなわれます。

よりよい放射線防護策を立案するには、ICRPによって恣意的に選ばれた者だけでなく、福島原発事故を経験した被災者や市民、事故後の状況を詳細に把握している日本の研究者が広く参加し、新基本勧告に向けて議論することが必要です。このため、原子力市民委員会は、ICRPに対してICRP2023に3つのセッション(「Publication 146の振り返り」「市民の観点から新基本勧告に導入すべき点」「福島における甲状腺がん」)を設置すること、福島をはじめとした市民の参加を促進するために、上記セッションの福島での開催、日本語通訳の提供、参加料金の免除や割引などを公開レターを通じて要望しましたが、残念ながら全て受け入れられませんでした(一連の経緯はこちらから)。

勧告では「利害関係者の参加」をうたいながら、ICRP2023への市民参加を認めないICRPのあり方には大きな問題があります。今後、幅広い市民や研究者が不在のまま、新基本勧告の改訂の検討が進められることによって、福島原発事故後の不十分・不適切な対応が既成事実となり、放射線防護の基準を緩めることに「悪用」されてしまいかねません。

ねじ曲げられる科学
放射線防護に関しては、UNSCEAR(原子放射線影響に関する国連科学委員会)が科学的知見をとりまとめ、ICRPが勧告を作成し、それが各国に取り入れられるという手順になっています。

UNSCEARは、福島第一原発事故の影響について「2020/21報告書」をまとめましたが、これにも様々な問題があることが指摘されています。例えば、発表時のプレスリリースのタイトルは「放射線関連のがん発生率上昇はみられないと予測される」※2でしたが、報告書には増加が検出される可能性が高いことが分析の結果として示されています※3。また、被ばく量の推定のもととなったシミュレーションの結果が、現実のデータとまったく異なっていることも指摘されています。国際的な機関の名を借りて科学を振りかざすという手法は、「IAEAによる汚染水放出へのお墨付き」などでも使われてきました。これに対抗するには、良心的な専門家の助けを得ながら市民が学んでいく必要があります。

市民による民主的な放射線防護策の提案に向けて
福島原発事故後の放射線防護における最大の問題は、市民の人権や意向が無視されてきたことであり※4、放射線防護を市民の手に取り戻す必要があります。そのためには、市民が自ら福島原発事故の経験や放射線防護のあり方を専門家などと共有し、理解し、ともに学ぶことが重要です。

そこで、市民の参加を拒むICRP2023の“対抗イベント”として、さらに2030年頃のICRP基本勧告改訂に向けて市民を重視した提言をおこなっていく長期的な取り組み体制をつくるための第一歩として、「放射線防護の民主化フォーラム 2023-2030」を企画しました。

今回のフォーラムの概要と特徴
今回のフォーラムでは、福島原発事故の経験を共有し、放射線の影響からの‟身の守り方”を市民の視点で問い直すために、ICRPに提案していた3つのセッションを設置しました。「セッション:福島の経験を共有する/ICRP146の問題」では上述の2020年に改訂されたICRP勧告の問題点を論じます。これらを踏まえて「セッション:ICRP新勧告改訂に向けて」では、その方向性を議論します。「セッション:UNSCEAR福島報告書の問題点」では、甲状腺がんの問題や、その前提としての被ばく量の推定、県民健康調査の問題点も論じます。さらに、「セッション:連帯に向けて」では、原爆被爆者や公害問題との関連、さらに若い世代と連帯するための課題も論じます。
福島市でおこなうこともあり、肩書きは様々ですが、福島にゆかりのある方々が多く登壇することも大きな特徴です。質問や議論の時間も確保してありますので、スピーカーとの意見交換の場にしていただければと思います。
さらに、報告とあわせて、「(写真展)福島の記憶 3.11で止まった町」「減思力(げんしりょく)」の教訓を学ぶためのパネル展」「原子力災害考証館furusato伝承館」も開催します。考えることとあわせて、写真やパネルからも様々なことを感じていただけるのではないかと思います。

福島原発事故の影響を振り返り、感じ、理解し、将来に向けて批判力を養うための2日間へのご参加(現地、オンライン)をお待ちしています。  プログラム・お申込みはこちらから]

※0 ICRP Publ.146の改訂に関して、今回のイベントの登壇者らによるシンポジウムの結果は下記にまとめられている。
「放射線防護とは何かーーICRP勧告の歴史と福島原発事故の教訓」『科学史研究』60巻298号(2021)p.150-174
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhsj/60/298/60_150/_pdf/-char/ja
※2 UN (2021), “東電福島事故後の10年: 放射線関連のがん発生率上昇は みられないと予測される,” https://www.unscear.org/docs/publications/2020/PR_Japanese_PDF.pdf
※3 『原発ゼロ社会への道』2022年版の1.3.3 コラム⑧参照。http://www.ccnejapan.com/20220826_CCNE202305.pdf
※4 『原発ゼロ社会への道』2022年版の1.1.4 参照。同上。

 

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